[逆吸血鬼と下水処理場跡]
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研究室みたいな一角で、ジャイアンは立ち止まる。
廃墟なので電灯はついておらず、あるのは部屋のドアの小さい窓から入る明かりだけという中で、わざわざ止まったのに悪意を感じた。
既にこの時点で顔は真っ青になっており、正人やジャイアン達の手前、プライドだけで平静を保っていられるような状態である。
「ここが何故閉鎖されたのかという理由を」
「知るわけねーだろ!」
恐怖を紛らわすためにわざと大声で答えた。
だけどそれは他人から見たら強がりなのは明らかなようで、ジャイアンはその様子に満足げだった。
「ここでは昔、」

「人死があったらしいね」

わざとらしく言葉をつなげたいたのはスネ夫だった。
人死・・・・・・そんなわけない。
ここの閉鎖理由は機能を別の場所を移転したからだ。それ以上でもそれ以下でもないだろうと。
「じゃあ、何故機能を移転しなければならなかった?別にこのままでもよかったじゃないのか?」
「移さざるを得なくなる理由があったんだよ。そうとしか考えられない」
「それが人死だって?」

 スネ夫は語り始めた。
ここでは昔ある職員が水質調査のために、水槽の水を取ろうとして誤って足を滑らせたらしい。
しかもそこは水を攪拌するために機械が作動していた。
気づいた職員が慌てて機械を緊急停止させたが、手遅れだった。
職員は機械に巻き込まれバラバラになった。
後に遺体の殆どは回収されたのだが、何故か右腕が見つからない。
右腕は汚泥と区別できないくらいバラバラに分解された。
そう結論付けられた。
そしてその日以来、機械の故障が頻繁に発生するようになる。
職員たちの間に死んだ職員のことがささやかれるようになり、ついに下水処理場の閉鎖を決定的にした事件が起こる。
それはいつものように機械が故障した日のこと、その機械を管理していた職員が原因を探るために水槽に近づいた。

その時、水槽から伸びた右腕が突如職員の手をつかみ水槽に引きずり込んだ。

そして故障していたはずの機械が突然動き出し、その職員はバラバラにされた。
二人もの人死を出したことで、警察のメスが入る。
その結果、市会議員と企業との癒着が発覚し、そのせいでこの事故は有耶無耶になったのだ。
その機械は今でも放置されているのだという。
「その機械は実はこの建物の地下にあるという話だ」
スネ夫の話は実に巧みだった。
自分にもその話の才能が10分の1でもあればいいと思う。
その話は、与太話だと分かっているはずなのにこの下水処理場の雰囲気もあいまって、鬼気迫る臨場感があった。
正人も、これが嘘であるというのは分かっているはずなのに思わずつばを飲み込んだ。
ジャイアンですら、俺を怖がらせるための話のはずなのにビビっていた。
「とと、言うわけだ。こ、これからそこに行くつもりだが、ももちろんついてくるよな?正人も逆吸血鬼も」
ジャイアンが俺を逆吸血鬼と呼ぶときは暗に逃げるなよといっているに等しい。
その話だけでもう今すぐ死にたくなっていた自分はうなずくことはできない。
無言を肯定と受け取ったのか、ジャイアンは恐る恐る歩いてゆく。
正人がそれに続き、スネ夫に背中を押され俺もようやく歩き出す。

 やがてその地下に続くという階段があるドアの前にたどり着く。
どうやらジャイアンとスネ夫はあらかじめ建物の中を歩き、その目星をつけていたらしい。
すでにそこは窓からの光も差さない場所で、ジャイアンが持って来ていたライト以外には光が存在しなかった。
俺はというともうライトの光を見ること、もうそれだけに意識を集中している状態。
それ以外はどうでもよかった。
だから、ライトの先に「非常階段」と書かれていたのをはっきりと覚えている。
「おい、逆吸血鬼。お前があけろ」
いきなりの指名。
無我の境地に達していた俺にその言葉はすんなり入り、まるで幽鬼のようにフラフラとドアの前に立ち、ノブを回した。
だが、その地下に続くはずの階段は水の底に沈んでおり、どう見てもいけそうな感じではなかった。

「うわああああああああああ!!!」

続く