[女の子]
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先輩はアイアンクローみたいに俺の顔を掴んで自分に向けさせ
「○○くん、小学生の子が居るけど気にしないでって言ってたでしょ」
と、さっきとは全然違うけど、ちょっと厳しい口調で言われた。
どうやら、AとBが普通に話しかけてた女の子が、先輩の言ってたその
「小学生の子」だったらしい。
あんなにも普通にあっちの世界の人が居た事に俺はびっくりした。
AとBは突然子供を怒鳴りつけた先輩に若干怯えつつ、仕事をサボっていた事を
咎められたと思ったらしく、イソイソと作業に戻ってた。
そこに舞台の下手側からCが帰ってきた。
「Dセン(先生の意)ちょームカつくんだけどー!説教長すぎ!もー夜じゃんさー」

おかしい。
Cはいつから居なかった? 
Cは仕事を全くしないで、遊んで、飽きて、寝てたはずなんだ。
俺、A、B、呆然
「C君、バリバリ仕事しないと明日に間に合わないよ」
「ういーす、遅れてすんませーん」
先輩は何事も無かったように普通にCに指示を出してた。
5人は黙々と作業した。

明日の文化祭は体育館での集会から始まる。
朝の集会用のセッティングとして、2人1組になって
舞台の両サイドにある短いバトン(幅の短い幕を吊るヤツ)の幕を交換してた時。
壁に固定してるワイヤーを解いて1本ずつ舞台上に降ろしてた
壁にカーテンを固定するのに似たフックがあって、それにワイヤーが巻いてある。
バトンは上下2本づつ下手は俺と先輩、上手はAとB、遅れてきたCは中央に吊る
文化祭のパネルの準備をしてた。
バトンはそれなりに重く、ワイヤーを解いた後にゆっくり降ろすのは
力が要るので女の子にはちょっと不向きな作業だ。
分担は、俺がバトンの昇降係り、先輩が幕を付け替える係り。
1本目を降ろして先輩が付け替え作業をしてる時に、
さっきの女の子の事を聞いてみた。
「ここ1年くらいかな、たまに居るんだよね。普段はバトンの上に居てね」
話の途中で天井付近のバトンを見上げると、うっすら女の子が見えた気がした。
「先輩…」(見えた気がした事は言えなかった)
「普段は見てるだけなんだけどね、今日は文化祭控えて気が立ってるのかな?」
「そうなんですか…」
と、2人で上を見上げた時、
視界途中で別のバトンのワイヤーが解けてくのが一瞬見えた
やばぃっ! 思った瞬間には猛烈に上に引き上げられてくワイヤーを掴んでた。
バトンは先輩の頭上50センチくらいで止まった。
先輩はドラマで車に引かれる役みたいに、両手を縮こまらせて固まってた。
俺の手は火傷なんてもんじゃなく、手のひらの皮が一直線にべろんと行ってた。
上を見上げたけど、女の子は見えなかった。

こっちの騒動を見てた3人が走ってきて、大丈夫か?保健室行けってなやり取りがあって
危ないからバトン作業は1本ずつ全員でやってこうって話になった。
俺は保健室に行こうかと思ったけど、1人で校舎を歩くのが怖かったので遠慮した。
そこから作業を終えるまで、女の子は出てこなかったし、CはCのままだった。

これが俺の文化祭前日の洒落にならない、人が死んだかもしれない怖い話。
長文失礼した。


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Part195
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