[青いおじさん]

産まれてから中学校を卒業するまで、父の会社の社宅で過ごしたんだ
家族構成は父、母、漏れ、弟
住んでた家は関東平野のマンモス団地(1棟50世帯が、20棟くらいのトコ)
間取りは
6畳間、3畳間、4畳半が一列に並び、
廊下を挟んで
台所、玄関、風呂、トイレ
6畳は独立間、3畳と4畳半は襖で仕切ってある
小額の時は4畳半に漏れと弟の勉強机があったんだけど
漏れが中学に上がる時に親父の部屋だった3畳間を漏れの部屋として貰えたんだ。

6畳間は居間として使ってて、TV見たり食事したりしてた。
社宅に住んでるガキにプライバシーなんて概念は無く、
3畳の廊下側の襖はいっつも開いてた。
居間からトイレに行こうとすると、1本の廊下を抜け3畳、4畳半の前を通る。

3畳の前を通り過ぎる一瞬、必ず視界の隅を部屋の中が掠めるんだけど
通り過ぎる時にかならず見えてたんだ。
3畳間の真ん中に立つ、うす青く光るうつむいたおじさんが。
はっとして見返すと誰も居ないんだけど、通り過ぎる時は必ず居る。
そんな部屋を漏れは貰ったんだ。

おじさんを目撃してたのは漏れと弟だけ、親父とおかんは
漏れら2人がどんなに言ってもそんなのは居ないの一点張り。
でも、おじさんは絶対に居たんだ。
漏れが中学校の卒業旅行に行った時、中学入学を控えた弟が
4畳半で両親と寝るのは嫌だと言ったらしく、漏れが旅行の間だけ
漏れに内緒で漏れの3畳間に寝る事にしたんだと。
弟にしたら、12年の人生で初めての1人部屋だ。
そうとう嬉しかったらしい。
その夜までは。

3日後、旅行から帰ってきた漏れは弟から謂れの無い罵声を浴びて
両親から話を聞いたんだ。

漏れが旅行に出た初日の真夜中、
喜んで漏れの部屋で寝ていた弟の枕元でセットしても居ない目覚まし時計が
規格外の音で鳴りまくったらしい。
3畳間の弟、襖の向こうで寝てる4畳半の両親共々びっくりして飛び起きた。
弟は半ばパニック、両親は何の音だと部屋を覗き込んだその時、
高さ180cmくらいの洋ダンスの上から、音も無くファミリーテントの袋が降ってきた。
弟の頭がちょっと前まで乗っていた枕の上に。

ウチでは洋ダンスの上は物置代わりに使われてて、
アウトドア好きの親父のキャンプ用品が置いてあったんだ。
勿論そんなにすぐ崩れ落ちるような置き方はしていない。
タンスの縁にはプラレールの電車とか並べて、ある程度距離を稼いでたし
落ちてきたテントの袋にしても、骨の束のおかげで転がる物でも無い。
そんな物がさっきまで弟が寝てた所に降って来たわけだ。
クソ憎たらしい弟は今でも健在だが、もしあの晩、目覚まし時計が鳴らなかったら…

そんなこんなで漏れの曖昧な幼少期を過ごした社宅とはオサラバ。
次の新居は工場跡地に建った大きなマンション。
気が向いたらつづく


次の話

Part195
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