[ピザ宅配]

去年の夏、ある団地に宅配のバイトでピザを届けに行った。夕方5時ぐらい。
バイクを泊め、ドアの前に行くと、何故かピンク色の汚れた洗面器があって、その中に金が置いてあった。
少しおかしいとは思いつつ、チャイムを鳴らしたが、全然でてこない。

金がある以上、ピザを手渡さない訳にも行かないので、困ってしまった。
仕方なくゆっくりドアノブを回すと、ドアが開いてたんだ。
「すみません、ピザお届け・・・」ここまで言って、異変に気付いた。
部屋の中が見えない程、黒い煙?で充満していたんだ。

一瞬「火事か!?」と思ったが、そういった類いのコゲ臭い匂いはしなかったし、(何というか、海っぽい匂いがした)
団地の下では、さっきバイクをとめた場所に居た子供たちが遊ぶ声もする。
俺は「すいません、お届けものです。」もう一度言った。

すると、すぐ近くの下駄箱が、ドン!と派手な音を立てて倒れた。
ビクっとなったのもつかの間、黒いモヤの中にゆらめく影を見たんだ。
体の片方側だけに、腕が三つあった・・・。

もう訳が分からなくて、怖くて、それでも必死に「ありがとうございましたー。」
とだけ言って、洗面器の中の金をひっ掴んで逃げるように階段を駆け降りた。

偶然なのか何なのか、何故か引き返した時には、
遊んでいた筈の子供たちも一人残らず居なくなっていた。

バイクに跨がり、発進する時、今行った部屋の窓を見上げた。
部屋自体には、特に異常は無いようだったが、
(と、いうか、カーテンが閉まっていて中は見えなかった)
その部屋の窓がある地点の壁に、黒い液体?が3本、下に向かって線状に垂れてて、
それは、下の階の窓のすぐ近くまで来ていた。

バイトに戻ってこの話をしても、誰も信じてくれなかった。
作り話上手いなあ、と笑われた。

・・・もし、ああいう先天的な障害を持った人だったなら、申し訳ない事したな、とは思う。
けど、不気味すぎて、あの時の行動を咎められてもどうしようもない・・・


そのバイトは、それから少しして、やめた。


次の話

Part195
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