[兵砲森・]
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一瞬、何かの冗談かと思ったのも束の間、月夜で青白く照らされたその兵隊の顔を見て、
目が合った瞬間に、「この世のものじゃない!」と確信したそうです。
(彼が言うには、言葉ではうまく説明できないが、葬式などで遺体を見たときの、なんとも言えない気持ちになる顔、だそうです)

兵隊と目が合ったまま、恐怖で動けないでいると、突然兵隊が大声で

「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」

と聞いてきたそうです。M新隊員達は恐怖で答えられずにいると、その兵隊は、

「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」
「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」
「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」

と何度も何度も壊れたプレイヤーのように聞いてきたそうです。

M新隊員が目が合ったまま恐怖で動けずにいると、隣の同期がいきなり無言で走って宿営地のほうへ逃げてしまい、
M新隊員が一人取り残されてしまいました。

とっさに「ヤバイ!」と思って、M新隊員も、その兵隊の横をすり抜け、宿営地へ走って逃げました。
後ろでは、まだ、

「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」

と言う兵隊の声が聞こえてきます。

そして腰が抜けそうな、かくかくとした駆け足で宿営地に着くと、そのまま班長達のいる天幕(テント)へ走りこみました。
いきなり飛び込んできたM新隊員に班長は当然に、「何をしている!持ち場はどうした!」と怒鳴りつけました。
M新隊員は、カチカチと歯を鳴らし、涙を流しながらも、今までの状況をすべて班長に報告しながら、
「やっぱり、あそこにもう一度行って来いって言われるんだろうな」と思ったそうです。

ところが、意外なことに、班長はこの報告をあっさりと納得し、
「わかった、自分の天幕に帰ってもう寝ろ!」と一言だけ言うと、外へ出てどこかへ行ってしまったそうです。
天幕内にいた、この騒ぎで起きだした他の班長達も、なぜかみんなM新隊員を同情するような顔をして、黙って
また寝てしまったそうです。
この反応に、ちょっと肩透かしをくらったようになりましたが、もうあそこに行くのは絶対に嫌だったので、
素直に自分の班の天幕に戻ることにしました。

とぼとぼと自分の天幕へ戻っている途中で、先に逃げた同期の事を思い出しました。
「俺より先に逃げたのにどこにいったんだろう?迷子になったのか?」
と考えていると、班長が外へ出て行ったの思い出し、
「あ、班長はあいつを探しに行ったんだな、じゃ安心だな」
と自分に都合良く考え、一人で納得し、自分の班の天幕に戻りました。

そして、自分の班の天幕で、寝るために装具を外していると、天幕の入り口あたりで、ガサガサと音がしました。
「あ、あの野郎が帰ってきたな、先に逃げやがって!」と思いつつ、天幕の入り口を開けてやると、
さっきの兵隊の顔がいきなり現れました!

今度こそ腰が抜け、へたり込むと、その兵隊がニヤリと笑い

「砲兵第○○大隊の陣地は ここ でありますか!!」

と言い、そこでM新隊員は気絶、気がついたらもう朝だったそうです。
ちなみに、先に逃げた同期は、班長達の天幕の近くで隠れているところを、班長に見つかり(やっぱ探しに行ってたw)
班長から「仲間を置いて先に逃げた罰だ」と言われ、班長と一緒に例のタコツボで朝まで歩哨をやらされていたそうです。

この「砲兵第○○大隊の陣地はどこでありますか!!」と聞いてくる兵隊の霊は、何十年も前から目撃され続けているそうです。

ここまで書けば、みなさんはもうお気づきでしょうが、この「砲兵森」という名前の由来は、
旧軍事代から目撃され続けてきた砲兵の幽霊が元で、「砲兵が出る森」「砲兵森」と呼び、
それがそのまま大正、昭和と旧陸軍時代、戦後の陸上自衛隊と続き、いつしか正式な名称になったという話です。

実際に明治時代に、旧陸軍の砲兵大隊がここで陣を張り訓練をしていたところ、一人の兵隊がいなくなり、
捜索するも結局見つからなかったという事件あったそうです。

私も実際に、この「砲兵森」で何度か野営しましたが、たしかに薄気味悪いところでした。
幸いにも私はここでは何も見ることは無かったのですが、他の場所では色々と体験させていただきました・・・
それはまた次の機会に書きたいと思います。

以上、長文駄文失礼しました。


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