[右手に骸骨、左手に・・]

愛知県の出る、と噂の多いとあるトンネルの話。
おれの友達のバイクの走り屋仲間が実際に体験したという。

その日、夜中にみんなで峠を走らせがてら、肝試しで例のトンネルへ行こうかと計画をリーダーが立て、人を集めた所7人の走り屋仲間が集まった。

深夜2時頃、時間帯もあってかバイクのエンジン音のみが峠の道で響き渡る。
「着いたぜ!」と本来公道として使われているトンネルとは違う、今はトンネルの端が封鎖されているもう一つの旧トンネルに7人は到着した。
ぽっかりと口を開けた真っ暗なトンネルと森からの冷気が、蒸し暑さによるじっとりとした汗を冷やす。その心地よさとは逆に7人は何か嫌なものをそれぞれ感じ取っていた。

「ビビってんじゃねーよ!んじゃルールな!おれがまず最初にトンネルの端の壁まで行って、ロウソクを7本、人数分置いてくる。1人ずつトンネルの端まで行き、そのロウソクに火を点けて帰ってくる!」
とさすがリーダー。そう言うとさっさと人数分のロウソクを持ってトンネルの闇に消えていった。

6人はトンネルの闇をじーっと見ているしかなかった。それほど場に圧倒されていた。
しばらくすると闇の奥の方でかすかにオレンジ色が見え、それがだんだんこちらへ近づいてきた。
「お〜!やべやべ!!やっぱなんかいるよあそこ!」と顔を引きつらせてまずリーダーが帰ってきた。ロウソクを置き、自分が持って帰るロウソクに火を点けようと、ジッポを擦って場が明るくなった瞬間に何かが視界の隅で動いたのだという。

このリーダーの嘘に見事に引っかかった6人は完全にビビってしまい、かと言って年頃の男が集まっているのだから腰抜けには見られるわけにもいかないと、ガクガクいいながら一人ずつトンネルに入りロウソクを持って帰るという度胸試しが始まった。

真っ青な顔で戻って来る者、恐怖に耐えられなくなり走って戻って来てつまづいて転ぶ者もいれば、余裕じゃんと笑いながら戻って来る者もいた。

そして残された、7人の中では最年少の後輩。彼はただ1人、最後まで青い顔をして震えていた。
「お前が最後だからな!ロウソクちゃんと火ぃ点けて持って来いな!」とリーダーが肩を押した。
後輩は顔面真っ青にしてフラフラと闇に消えていった。

「う〜ん、おせぇな…」
後輩がフラフラとトンネルの闇に消えて30分が経とうとしていた。他の者は遅くても10分ほどで戻ってきていた。
うんこしてんじゃねーの?と話しながら、万が一の事があったら何なので、みんなでトンネルに入ろうとした時、小さなオレンジ色の光がこちらへ近づいて来た。
おー来た来た!と皆でロウソクに照らされた後輩の顔を見た。
後輩は顔が変形していた。

目は髪の生え際まで細くつり上り、目の下は墨を塗ったように真っ黒になり、口からは泡を吹き出し仮面のような固定された笑みを浮かべ、その目は完全に左右違う方向を睨んでおり、「ん゛〜ん゛〜」と唸りながら後輩は戻って来た。

6人はそれだけで正気じゃないと思ったが、リーダーがあるものを見て後輩の顔を「正気に戻れやドアホ!!」と力一杯ぶん殴った。
後輩は右手にロウソクを、左手に腐った獣の死体を大量に抱えて戻ってきたのだった。
殴られた瞬間、後輩は「ギャイン」と獣の鳴き声のようなうめき声を出し、気絶した。

しばらくすると後輩は目を覚まし、正気に戻っていた。皆が話を聞くと、トンネルに着いた瞬間からすでに意識が無かったという。

その後輩は頬の腫れとともに、目の下の真っ黒いクマはしばらくとれなかった。

「ホント遊び半分で肝試しとかやらない方がいいよ。」と友達は忠告してくれた。

おれは出る、と評判の千葉は松戸の八○霊園12区に行こうかと思っていたがやめた。。


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Part194
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