[道を尋ねる男]

自宅から自転車で10分。徒歩で30分前後くらいの場所にある24時間スーパー
ここの夜勤に勤め始めてもう4ヶ月が経った

いつもは人通りもそれなりにある表通りを出勤路にしている
でも、その日は遅刻気味だった
仕方なく普段は通らない裏道を使った

自分はこの裏道が嫌いだった
特に何か事件があったわけじゃない
ただ、人通りが少なくて暗いというだけだ
それだけの理由で、人は、何か得体の知れない恐怖というものを植えつけられる

精一杯自転車を漕ぐ
別に遅刻したからってきつく咎める上司はいない
「コーヒー一本で手を打とう」と言う上司ならいる
同僚達も、人当たりが良い
誰も文句も言わない、とても働きやすい職場だ
だからこそ自然と自分を急かす

T字路が見えてきた。ここを曲がればもうすぐだ
と、そこに人影が見えた
本のようなものを持ちそれを覗きこんでいる
確かに街頭はある。が、こんな場所で、こんな時間に読書だろうか?
いや、そんな趣味の人もいるだろう
今は急がなくてはならないんだ。気にしないほうがいい
考えているうちにそれとすれ違う

「あの、すみません」
普通なら聞き逃してしまっていただろう
見るからに急いでいる人を呼び止めるか?
このまま急げば間に合う
甘い性格なのかもしれない。数メートル先で、自転車を停めた

自転車を押して引き返す
若い男。20代前半だろうか
手に持っていたのは地図だった
「すみません、道をお聞きしたいのですが」
男はそう言うと、紙を取り出した
「この住所なんですが、ご存知ないでしょうか?」
差し出された紙は名簿のようで、びっしりと名前と住所が載っている。何かのリストだろうか
その列の一つに指を差している
○○市□□5-47-2か。ここから歩いて5分もかからない場所だ
人助けをしていたと説明すれば遅刻は納得してくれるだろう
「ああ、わかりますよ。すぐそこなのでご一緒します」

目的の場所に着くと、男は礼を言い、すぐ近くの家の呼び鈴を押していた
それを最後まで見届けず、俺は仕事先へと向かった

翌朝
勤務先のスーパーの社員用休憩室でのことだ
昨日の男は一体なんだったのだろうか
そんな事を思いながら備え付けのテレビを見ていた
朝方ということもあり、流れるのはテレビショッピングだとかニュースばかりだ
とあるチャンネルで指が止まる
昨日、あの男が呼び鈴を押していた家が映ったのだ
何の偶然か、俺が眺めていた角度と全く同じ光景で


・・・・・・先程入ったニュースをお伝えします。
昨夜未明、××県○○市の隣の家から叫び声が聞こえたとの通報があり
地元の警察官が駆けつけたところ、男が血の付いた刃物を持って玄関先に立っているのを発見し、身柄を拘束しました
家の居間にはこの家に住む●●さんと思われる遺体があり、二階には妻の●●さんと思われる遺体が発見されました
また、浴室で長女の●●ちゃんと次女の●●ちゃんと思われる遺体も発見されています
遺体は全て顔が激しく損傷し、腹部を中心に数十箇所の刺し傷があり
警察では歯型などから身元の特定を急いで・・・・・・


次の話

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