[早朝の人]

友人の話。
高校時代運動部で、六時から朝練やらされてたんだとさ。
通学時間+準備時間で、家を出るのは五時ちょっと過ぎ。
自転車通学で、周りは至って普通の住み慣れた住宅街。曰くも何も無い。

で、ある日いつも通りに家から自転車乗ってたんだとさ。
そしたらふと気が付くと、前方を横切ろうとしてる人がいたんで、ちょっとスピードを落として避けた。
で、避けた瞬間、その人の顔が凄く近くに来て目が合った。

友人は近眼なんで、その時まで気づかなかったそうだが。
その人、顔面が白塗り。唇だけ真っ赤。で、なぜか超笑顔。
身長は160前後か、黒っぽい着流しで、髪はぼさぼさ。

何を目にしたのか理解できなくて普通に通り過ぎた友人、
数秒後に認識、「明らかにおかしいじゃねえかあああああ」
と思って後ろを振り返らずに猛スピードで自転車漕いでその場を去った。

生まれ育ちもその街で、そんな明らかにおかしい人の話なんか聞いたことがない。
近所に暗黒舞踏家が住んでるなんて話も勿論ない。アングラ演劇人も住んでない。
何かの撮影かドッキリか酔っ払いか。まあ、たまたまだろうと思って忘れることにしたとさ。

が、その数週間後、同じように通学途中にまた遭遇。やっぱり白塗り超笑顔。今度は向こう側から歩いてきた。
近眼と言えど、前回があるので数メートル前で気づく。
よりによって狭めの一本道。もし普通の人だったらUターンしたら失礼だよなと思った友人、
びびりながらもその人の真横(距離は1mくらい)を通ることにした。
その人の方は見ないようにしていたんだけれども、向こうが首を捻って自身を舐めるように見たのが視界に入る。

なんとか通り過ぎて、ああ良かったと思ったら、
「タナカくん(友人の名前)だねえ〜〜」という声が背後から。
へ?と思って振り返ると、例の人が数メートル背後から更に一言。「タナカくんだねえ〜〜」

一瞬思考が停止したが、なんとか気を奮い立たせて自転車爆走させてその場から離れる。
なんで名前が分かったんだ?!ってうろたえまくったが、
考えてみたら部活のユニフォーム通学で、背中に名前がローマ字で刺繍されていた。
いや、それにしても明らかにおかしいだろ。

それからはキツイけれども家出る時間を30分早くずらすようにしたんだとさ。
友人曰く、「生きてる人だろうけど、幽霊であった方がマシ。
近所にいるなんて実在してるなんて信じたくない」
とのこと。


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