[親父の話]
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「早く寝ろ。」と有無を言わせない命令をされた俺たちは、ネタばらしすることもできず、しかたなくそれぞれの部屋に戻った。
明らかにおかしい親父の態度のことを考えると、俺は眠れることはできそうになかった。
2時か3時ごろだったと思う。案の定眠れなかった俺はぼんやり外を見てた。すると庭の車に何か影が見えることに気付いた。
車の陰で動いているソレはここからではちゃんと確認できない。

妙な胸騒ぎがしたので、裏口からこっそり、足音を立てないように車が見える所まで行った。
車の後ろの影は明らかに人のものだった。
ぎりぎりまで近づいてようやく影が何かわかった。正体は親父だった。
親父がこんな真夜中にバケツと雑巾を持って、あの手形を洗い落としていたのだ。

しかもあろうことに号泣しながら。

遠くからだったので多少脳内保管が入ってるかもしれないが、こんな風に聞こえてきた。

「許してくれ…ウッ…頼むからゆるしてけれ、な…ゆっ(ゆう?)ちゃん…あの子らだけは…後生…恨むなら……」

何かに詫び続けながら車を磨く親父を見て、なんだか恐ろしくなり、俺は急いで家に帰り布団に潜った。
翌朝、何事もなかったかのようにおはよう、と起きてきた親父。それでも目には明らかに泣き腫らしたと見られる跡があった。
弟も昨日のことで釈然としないのか俺を問い詰めてきたが、深夜の奇妙な行動を話すとさすがに顔を強ばらせた。

結局、あれから一度も親父にはこのことを話していない。車の手形も綺麗さっぱり最初から無かったことになった。
そして例の心霊スポットには行くことはおろか、話すことも俺と弟の間ではタブーになっている。


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