[吉村]
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俺が席についてから5分もしないうちに警官が到着して
俺たちは全員警察署に連れて行かれた。
ヤクザ風の男たちは
「俺たち何もしてねえよ?何でだよ?」
と抵抗してたけど、警察は問答無用だった。



警察署で事情聴取を受けて取り調べ用の部屋を出ると
別の部屋から菜美が出てきて、俺に話しかけてきた。

菜美「ありがとうございました。助かりました。
ぜひお礼をさせてください。連絡先教えてもらえませんか」

俺が携帯の番号を聞くと、菜美はまた部屋へと戻って行った。
別にお礼なんかいらなかったけど、それぞれ話が食い違ってた理由と
「付き合ってない」と言った意味が知りたくて、俺は番号を教えた。

その日の夜、菜美から電話があった。
お礼の品物を渡したいので自宅を教えてほしいと言われた。
俺は、お礼はいらないと言い、
代わりに少し話がしたいから喫茶店で会わないかと提案した。
菜美は承諾してくれ、俺の最寄り駅近くの喫茶店まで出てくると言った。

だが、待ち合わせ時間が夜になるし、
今日のこともあるので、菜美の自宅から遠いところでは危ないと思った。
結局、菜美の最寄り駅の一つ隣の駅の近くの喫茶店で会うことになった。

一つ駅をずらしたのは、
菜美の自宅の最寄り駅が、やくざ風の男たちに絡まれた駅、
つまりバイト先の最寄駅だったからだ。

喫茶店で見た菜美は
前日の泣き崩れた菜美とは別人のようで、吉村がよく話してるように、
きれいな黒髪のストレートがよく似合う、清楚な雰囲気の美人だった。

自己紹介を一通り終え
その後、お礼と謙遜を言い合ったりとか
菓子折りを渡そうとするので「結構です」と押し返したりなどの定例の社交辞令の後、
菜美から昨日の顛末を聞いた。

驚いたことに、菜美は吉村とは知り合いでもないと言う。
菜美が言うには、事件のあった日、路上で吉村に唐突に
「借金のことで話がある」と話しかけられたらしい。

菜美の家は母子家庭で、あまり裕福ではないそうだ。
このため、東京の大学に娘を進学させるために借金をし
菜美は、てっきりその話なのかと思って、
吉村の誘いに乗って喫茶店に着いて行ってしまったらしい。

本題に入らないままファミレスで茶飲み話をしていると
吉村に呼び出しに応じて後からヤクザ風の男たちがやって来て
吉村を含めた三人に囲まれてしまったらしい。

ヤクザ風の男たちは
「俺らここで待ってるからよ。二人で話をつけろや」
と言い、菜美たちの横のテーブルに陣取ったらしい。

やくざ風の男たちが来てから、初めて吉原は借金の話を始めた。
実は、吉原は街金から借金しており
返済資金に困っているので返済に力を貸して欲しいと、
泣きながらお願いされたとのことだった。
力を貸すってのは、つまり風俗で働くってことだ。

理不尽な話なので最初は
「何で私が…」とか「関係ありませんから」などと反論して
席を立って帰ろうとしたらしい。
だが、席を立とうとすると、吉村に腕を掴まれて無理やり引き戻され
また、やくざ風の男たちからも
「話のケリもつけずに帰ろうってのか?
なめてんのか?てめえは?」
と凄まれたりしたので、怖くて帰ることが出来なくなってしまったらしい。

あまりに意外なストーリーを俺は呆然と聞いてた。
だが、そのとき俺は、菜美の話をあまり信じてなかった。
見ず知らずの女に「自分の借金返済のために風俗で働いてくれ」と頼むやつなんて、
現実にいるわけないだろ、と思ってた。

俺「山田さん、もしかして○○駅近くの○○と
××駅近くの△△でバイトしてるんじゃないの?」
菜美「え?……何でご存知なんですか?」
俺「吉村さんから聞いてるからだけど。

山田さんは見ず知らずだって言ってるけど、
どうして吉村さんは、そのこと知ってるのかな?

それから、もしかして自宅近くにファミマあるんじゃない?
吉村さん、よくそこで山田さんが何買ったとか話してたよ。
本当に、見ず知らずの人なの?

吉村さん、山田さんとの結婚考えてるって言ってたよ。
トラブルに巻き込まれたくない気持ちはよく分かるけど
でも、見ず知らずの他人なんて言い方したら、吉村さん可哀想だよ」

菜美はきっと、トラブルから逃げたくて、吉村と赤の他人のふりしてるんだろう。
そう考えた俺は、菜美に不快感を感じて、つい意地悪なことを言ってしまった。
意地悪な問いかけによって
菜美は開き直って、少しは本当のことでも話すのかと思った。

だが菜美は、この話を聞いてガタガタ震え出し、泣き出してしまった。
涙も拭きもせずにうつむいたまま脂汗流しており、顔は真っ青だった。
とても演技とは思えない狼狽ぶりだった。

俺「………………
もしかして、本当に見ず知らずの他人なの?」

続く