[モヤ]

田舎の友人にBという男がいた。
抜群の頭脳と優れた運動神経を持つ男だった。
それ故かプライドが高く頑固な面があり人付き合いを苦手としていた。
高校生の夏、男女12人ほどで一泊キャンプを行った。
キャンプ場から1キロくらいの場所に神社があり
そこへ男女ペアで肝試しする計画を立てた。
夜山奥の明かりのない山道に男女二人怖くない訳が無い。
女子陣の猛反対で結局全員でいくことになった。
最初は軽口を叩いた者も口数が減り気づけば全員無言になっていた。
梟の鳴き声、虫の声、明かりは各々持つ懐中電灯のみ。男の私でも気味が悪かった。
何事もなく神社にたどり着き暗闇の中参拝したら少し安堵したのか
帰りは「何もなかったね」とか「案外怖くなかったね」とか口にする者も現れた。
そんな緩んだ空気が一瞬で凍ったのは神社とキャンプ場の中間点くらいのこと
全員同時に白装束の女を道から外れた藪の中に見つけた。
全身に悪寒が走り鳥肌が立つ。
しかし良く見ると人ではなくモヤのようだ。
だがおかしい。こんな闇の中あんなにはっきり判るモヤなどあるのか?
全員同時に振り向き、尚且つ人を連想させる形。動けない。ただ沈黙だけが流れる。

沈黙を破ったのはBだった。足元の小石を拾うと白いモヤ目掛け投げつけた。
小石はモヤをすり抜けガサッと藪に消えた。同時にモヤもフッと消える。
緊張が解けたのか何人かの女子が泣き出した。
Bは泣いている女子の頭を抱え「大丈夫。怖ければ俺の手を掴んでればいい」
そう言って全員の肩を左右ポンポンと叩いて回った。
女子全員と何人かの男子がBに触れながらキャンプ場まで戻った。
2つのテントを使う予定だったが
まだ恐怖が抜けきれない俺たちは1つのテントで過ごした。
その後何事もなく翌朝迎えの車で無事帰りついた。

後日Bにあれは何だったのか聞いた。
B「ただのモヤだろ。それ以上何がある?」
俺「いろいろ不自然じゃないか?例えば霊的なものとか…」
B「くだらん。お前らは余計なことを考えすぎる。
例えそんなものだとしても俺に何も出来ないなら存在しないのと同じだ」
Bはとても強く男だった。


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