[冗談だよ]

小さな田舎町の中学にAとBいう少年がいた。
Aは地元では有数の裕福な家庭の子で我が儘で乱暴なところがあった。
Bの家は母子家庭で貧しさを嘲笑されたりはしていたが
成績は抜群で運動もでき喧嘩も強くみんなから一目おかれていた。

ある日Aが学校に木刀を持って登校してきた。
何を目的に持ち込んだのか定かではないがおそらくコレといった理由はないだろう。
Aはそんな少年だった。
その日Aの周りにはいつもの取り巻きや仲間連中が集まり
これまたいつも通り騒いでいた。
話題が木刀の話になったのか
Aはクラスの大人しい連中を標的に寸止めで木刀を振り回しはじめた。
次々と的を変えAは標的をBに定めた。
Bは他の連中と違い無言でゆっくり立ち上がると一歩Aに近づいた。
喧嘩になる。クラスの大半が思っただろう。
そのときAがピタリと木刀を止め「冗談だよ」とイヤらしく笑った。
しばしの沈黙。AもBも互いを見つめたまま動かない。
先にBが視線を外し教室から出ようとAに背を向けた。
一呼吸置いてAはイヤらしい笑みのまま木刀でBを薙払った。
BはAの行動を予測していたのだろう。
半身をひねり後ろ蹴りでAの手を狙い木刀を払い落とした。
Aはまた「冗談だよ」といいBも相手せず教室から出ていった。

ひと月後Aが学校の屋上から墜落死した。
屋上には普段鍵がかかって誰も入れない。
そのとき屋上にはもう1人Bもいた。
いろいろ取り調べもあったが事故扱いになったようだ。

屋上で何があったかはわからない。
だがクラスメートが参列したAの通夜でBが発した「冗談だよ」は一生忘れない。


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