[うめき声]

 先生が大学生時代、とあるアパートに下宿していたときのこと。
ある日、

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛〜〜〜」

っていう気味の悪いうめき声が外から大音量で聞こえてきたそうだ。
先生は何事かと思い、窓から顔をだして外を見たら、
他の部屋の住人もみんな同じように窓から頭をだして声のする方向を見ていた。
声は、アパートの管理人が連絡事項を住人に伝えるための
無線のスピーカーから発せられている。
つまり声の発信源は管理人室である。
他の住人達と集まって、どうするか話し合っていると、
ある一人の男が「俺が行く!」って名乗りをあげた。
その男は少林寺拳法の使い手で、勇敢にも一人だけで管理人室の様子を見に行った。

・・・しかし、いくら待っても少林寺が帰ってこない・・・

しょうがないので、集まっていた他の住人みんなで管理人室に行くことになった。

 管理人室前の廊下に出たとき、まず目に飛び込んできたのが血でできた水溜り、
そしてそこに気を失って倒れている少林寺がいた。
血は管理人室から流れ出ていた。

 管理人室の中は見るも無惨な光景だった。
床は全面血だらけ、壁はもちろんのこと天井にまで血が飛び散っていた。
飛び散った血の中には肉片つきの髪の毛が混ざっていた。
うめき声の発信者は老女だった。
足は正座の状態で、上体は放送器具の上にうずくまった格好でそこにいた。
老女の頭頂部のど真ん中には大きな鉈が突き刺さっていた。

 鉈が刺さっていた被害者はアパートの所有者・管理人であるばあさんで、
犯人は、アパートの近くの喫茶店のオーナーだったそうだ。
ばあさんはアパートの経営だけでなく、金貸しもやっていて、
オーナーとの金銭トラブルが今回の事件の原因らしい。

 ばあさんは鉈を頭に食らったあとも意識があったらしく、放送を使って助けを呼ぼうと
したらしい。それがあのうめき声だったのである。
 ばあさんは病院に運ばれ、一命をとりとめた。
なんでも、鉈が刺さった場所がちょうど良く右脳と左脳の割れ目の部分で、
脳に損傷がなかったおかげで、数ヵ月後には退院してしまったそうだ。
 廊下に倒れていた少林寺は、血の池で足を滑らせて後頭部を打ち、
それで気絶していたらしい。打ち所が悪かったらしく、ばあさんより
ずっと長く病院に入院していたとのこと。
 犯人のオーナーは犯行後すぐに自殺してしまったらしい。
それから、オーナーがいた元喫茶店に幽霊がでるという話がまことしやかに
ささやかれるようになったとか。


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