[エレベーターの女]
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しかし、ここまで来て何も見ずに引き返すわけにはいかない。
木製のドアであったため、持ち込んだ桐で、覗き見ができる程度の穴を穿ち始めた。
最初、手が震えてなかなかうまく刺すことができなかったが、やがてその桐は徐々にドアの中へと埋まっていった。
その間、三人は無言だった。このまま穴なんてできなければいい、という思いもどこかにあった。

長い時間を要したが、貫通した時にはもう穴があいてしまったのか、と時間の感覚がすでに狂っていた。
ゆっくりと桐を抜いていく。
誰が最初に中を見るか、声を潜めて相談する。

誰もが一番最初をイヤがった。それはそうであろう。
結局、今回の侵入を思いついた高校生が最初に見ることになった。
恐る恐る穴を覗く。すると・・・

そこに見えたのは、普通のトイレの内部だった。
何か見えるのでは、と期待した半面、どこかホッ、と安堵した。
残りの二人にも中を見るよう勧める。二人も同じだった。
先程までビクビクしていた自分たちが急におかしくなり、三人は笑い出した。
やっぱりこんなものは迷信だよ、と一人が再び穴を覗きこんだ瞬間・・・。

「わッ!」

トイレの向こうから、誰かがこちらを見ていたのだ。
便所にも関わらず、床に腰を落としてしまった。
そのただならぬ雰囲気に、もう一人が穴を覗いた。
彼が見たのは、真っ赤な血が壁中に付着したトイレの内部だった。

そんな二人を見て、残りの一人は訳のわからぬ声を上げて走り始めていた。

二人もそれを追うようにしてその場を立ち去った。

何十年もふさがれたドアの向こうにいたものは、一体なんだったのだろうか・・・?


ちなみに最初に逃げ出した高校生は一週間学校を休んだ後、退学。その後、いくつかの精神病院に入院した。
数年後、どこかの神社でお祓いをして、現在は普通に生活しているが、今でもあの時のことは堅く口を閉ざして、何度聞いても語ってはくれない、という。

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