[ビー玉]
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それからしばらくして、俺は東京に戻る事になった。
そいつにその事を告げると、はらはらと泣きじゃくった。
「せっかくいい友達が出来たのに…君がいなくなると、つまんないよ」
「まあ、そう泣くな。また来年来るからさ」
「…うん!淋しいけど、我慢するね!…あっ、そうだ、もうすぐあれ、出来そうなんだ。
明日君が出発するまでに作るから、お土産にあげるね」
「何?」
「イヤだなあ、ビー玉だよ!君のヒント難しいから、苦労しちゃったよ。だって、
川で洗うと中身が流れちゃうし…でもね、いい方法思いついたんだ!」
「ふ、ふ〜ん。そうか。楽しみにしてるよ」

翌日。迎えにきた母と、東京に帰るべく畦道を歩いていると、そいつは走ってきた。
「はぁはぁ、間に合ってよかった…これ、約束のお土産…一番綺麗に出来たやつ
持ってきたんだ…こうやってるとね、ちっちゃくならないし、綺麗なままなんだ…
じゃ、また来年来てね!きっとだよ!」
それだけ言うと、自分の口から何かをぽんっと吐き出し、俺の右手にそっと乗せた。
そして走り去った。
「こちらでできたお友達かしら?何をいただいたの?」
硬直している俺の右手の上にあるものを覗き込むと、母は絶叫した。

その翌年、俺は田舎に行かなかった。いや、それ以来一度も行っていない。
だから、そいつがどうなったのか全く知らない。
でも、俺の机の引出しには、大人になった今でもあの「お土産」が入っている。
干からびた緑色の猫の目玉が。

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