[山の神様]
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どろり、と流れ出る中身。その色が真っ黒だったのを、俺はなぜか冷静に観察していた。
他の奴らも何が起こったかよく認識できていないようで、皆そのまま立ち尽くしていた。
だが、そのおじさんが頭の破片を手に持ち、崩れた顔でにこにこしながらこちらに差し出してきた時に誰かがやっと悲鳴を上げた。
「ギャーーーーッ!!」
その声をきっかけに俺達は一斉に逃げ出した。
数メートル走ったところで振り返ると、後輩が一人まだあのおじさんの前に立ちすくんでいる。
おじさんは頭の破片をそいつの口元に近づけ・・・。
「馬鹿!逃げるぞ!」
俺は急いでそいつの所まで戻ると、手を引っ張って山道を駆け下りた。

その後駅まで戻って話を聞いたんだが、その山では何の事件も起こってないし、幽霊が出る噂なんかもないという話だった。
逆に山菜採りかなにかで迷った人が近くの村や町で見つかるということが何件かあり、「あの山には神様がいる」「山の神様に助けられたんだ」なんて話があるくらいだとか。

俺達は釈然としなかったがその村に行く気も失せてしまったので、
駅前の食堂で飯を食べるとその地を後にした。

帰りの電車で、あの時立ちすくんでいた後輩が突然話し出した。
「あの時、俺動けなかったんじゃないんですよ。カメラ持ってたんで、写真撮ってやろうと思って・・・。」
・・・なんとも肝っ玉の太い奴だ。
「多分ちゃんと撮れたと思うんで、帰ったら家ですぐ現像してみますね」
(こいつは写真が趣味で、家に簡単な暗室があった。)
そう言って別れたのだが、それが生きている彼を見た最後だった。

彼は暗室の中で死んでいたのを家族に発見された。
死因は心臓発作だったが、どうも例の写真を現像中だったらしい。
発見された死体は現像した写真を握り締めていたそうだ。
その写真だが、遺族が怖がるんで、俺が引き取ったんだけど・・・。

・・・写ってたよ。バッチリ。
自分の頭の破片差し出しながらにこにこしてるおじさんがさ。
正直燃やしてしまおうかとも思ったけど、なんだか処分してしまうのも怖くて未だに手元にある・・・。

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