[思い出の病院]

俺が子供のときに通っていた医院が取り壊されることになった。

思えば子供のころは体が弱くよく風邪を引いたものだ。

その医院が壊された。
驚いたのはその面積だ。
俺の記憶にあるその医院の広さと壊された土地の広さが明らかに違う。
車3台がぎちぎち止めるのがやっとの広さだ。
しかし俺の記憶では、玄関に靴を脱いで上がり下駄箱に入れ、待合室は5〜7人くらいが座れる面積があった。
医院には小さな薬局がありそこで薬の処方と会計を受ける。
診察室にはベッドがあった。

その先生(もう故人だが)は風邪を引くと必ず注射を尻に打つ。
俺もベッドに寝転がって嫌々ながら何度も注射を受けた記憶がある。
診察室には最低デスクと薬品棚と椅子と患者用の椅子とベッドがあったはずだ。
しかも先生は医院の2階を住居としていたため階段がある。
診察室と薬局、待合室と階段を入れるとその面積では辻褄が合わない。
隣との取り合いを比べても勘定が合わない。
隣の建物も古く、あとから立て替えたり増築されたものでもない。
当時の建物のままだ。

当時を知る母にも聞いたがよく覚えていないという。
母は俺が中学に入るころには別の医者に行くようになったから覚えていないという。
その医院を通るたびに不思議な感覚に襲われる。

単なる俺の記憶の混乱か?
他の医者に行ったときの記憶と一緒になって勘違いを起こしたのか?
いいや違う。

俺は自転車に乗ってて転倒し腕の骨に罅が入りここでベッドに寝てギブスをはめてもらったことを覚えている。
俺が当時子供で体の小ささを差し引いてもこの面積の小ささはおかしい。
たとえば子供時代に行ったことのある別の施設に長い間行ってなくて、成人してからそこへ行ってみてもこんな変な気持ちになったことはない。
考えれば考えれるほど変だ。
待合室には水槽があり熱帯魚が飼われていた。
それだけの施設がこの猫の額ほどの面積で行われていたのか?

俺も中年になり当時を知る連中もほとんどいなくなった。
たまに当時を知っている地元の年寄りに聞いてみたらよく覚えていないという。
わからないわけでもないが。30年以上前の話だものな。
でも俺は気になる。
いったいここはどんな設計だったのだろうか?


次の話

Part189menu
top