[漂流物]

私は子供の頃住んでいた家は、目の前が浜辺になっていました。
景色の綺麗な場所でしたが、潮流の関係からか、残念なことに漂着物がとても多い場所でもありました。
発泡スチロールやビニール袋、流木、海藻類と、波打ち際に雑多なゴミが打ち上げられており、定期的に地区で清掃していましたが、一週間もすればたちまち元通りの有り様でした。
なかでも嫌だったのが、水死体でした。
紫や緑の膨らんだ水死体を、私も二度程見つけたことがありますが、未だに記憶から消えてくれません。
それでも私自身、あの浜辺は好きで、今でもたまに立ち寄ったりはします。
とまあ、ここまてが前置きです(長くてすいません)。
そのような漁村だったので、私の子供の頃の食事は、近くで採れた海産物が中心でした。
ある日の夕食、イイダコの酢味噌和えが出たのですが、イイダコを一口食べたところ妙な感触がしました。ジャリジャリとした歯触りの悪い物が口の中に引っ掛かり、指でつまみ出したところ、長い毛でした。
真っ黒な髪の毛が数本、絡まりあったものです。
母親の物では決してありません。
私はそれ以来、タコを食べることができなくなりました。


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