[死者に会える方法]
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「…誰?」

返事がない。

「00か…?」

彼女の名を呼ぶが、返事が無い。恐る恐る、覗き穴から覗く。
長い髪の女が、後ろを向いてドアの前に居る!!何者かが、確実に居る!!

「00なら答えてくれ…」

青年は、ふいに涙が溢れてきた。楽しかった思い出の数々が蘇る。

「寒い…」

ふいに、女が口を開いた。彼女の声の様な気もするし、そうではない気もする。

「寒い…中に入れて…00」

女は青年の名を呼んだ。涙が止まらない。抱きしめてやりたい!!青年は、ルールの事など忘れて、ドアを開けた。
女は信じられないスピードで、後ろ向きのまま、スッ、と部屋に入った。
青年が顔を見ようとするが、長い髪を垂らし、俯いたまま必ず背中を向ける。
青年が近づこうとすれば、スッと距離を置く。

「とりあえず、ベッドにでも腰掛けてくれよ…」

青年が言うと、女は俯いたままベッドに腰を落とした。
しかし、この臭い…たまらない臭いがした。彼女が歩いた跡も、泥の様なモノが床にこびり付いている。
しかし、彼女は彼女だ。色々と話したい。死人にお茶を出すのも妙な気がしたが、2人分の紅茶を入れ、彼女の横に座った。
蝋燭をテーブルに置き、青年は語り尽くした。死んだ時苦しくはなかったか、生前のさまざまな思い出、守ってやれなかった事…
1時間は一方的に語っただろうか。相変わらず彼女は俯いたまま、黙ってジッとしている。
やがて、蝋燭の蝋が無くなりそうになったので、新しい蝋燭に変える事にした。火をつけて彼女を照らす。

…おかしい。ワンピースの右肩に、蛇の刺青が見える。彼女はタトゥーなど彫ってはいない。
足元を照らす。右足首にも、ハートに矢が刺さっている刺青。
というか、黒髪…??彼女はブロンドだ…言い様のない悪寒が全身を走る。
誰だ…!?電気をつけようとしたその時、女が凄まじいスピードで起き上がり、青年の腕を掴む。
凄まじい腐臭。女がゆっくり顔を上げると、蝋燭の灯りの中、見たくもない顔が浮かび上がってきた。

中央が陥没した顔面。合わせ絵の様に、左右の目が中央に寄っている。
上唇が損壊しており、歯茎が剥き出しになっている。飛び出ている舌。
青年は魂も凍るような絶叫を上げたが、女は万力の様な力で、青年の腕を締め上げる。
女が何か呻く。英語じゃない…ロンドンのチャイナタウンで聞き覚えのある様な…
まさか…!!彼女を轢いたのは、在英の中国人女と聞いている…その女も即死している…こいつが!?殺される!!

青年がそう思い、女が顎が外れんばかりに損壊した口を大きく開けた瞬間、
凄まじい雷か破裂音の様な音が室内にこだまし、天井が崩壊してきた。女は上を見上げ、
青年はとっさに後方に飛びずさる。崩壊して落下する瓦礫と共に、大量の水が流れてきた。
女は「ギッ」と一言だけ発し、瓦礫と大量の水に埋もれて消えた。
崩壊は、天井の一部だけで済んだ様だった。青年が唖然として立ち尽くしていると、
上から寝巻き姿の若い神父が、驚愕の表情で穴を見下ろしていた。

その後、アパートは、消防・警察・深夜に爆音で叩き起こされた野次馬達、等で大わらわとなっていた。
調べによると、2Fの神父の教会兼自宅の、バスタブと下の床が腐食しており、それが崩壊の原因だと言う。
ただ、確かに腐食はしていたが、今日の様に急に床ごとブチ破る様な腐食では無い、という点に、警察消防も、首を傾げていた。
さらに、神父は月に1度、聖水で入浴していた。その日、バスタブに浸っていたのは聖水だったという。
もちろん、青年は女の事など誰にも話さなかったし、瓦礫の下にも誰もいなかった。ただ、血の混じった泥の様な物が一部見つかったという。

そして、青年は不思議な事に気がついた。部屋の至る所に散りばめていた、
彼女との思い出の写真立てが、全て寝室に集まっていたのだと言う。
まるでベッドを円形に囲む様に。青年は、部屋を覗き込む野次馬の中に、微笑む彼女を見た様な気がした。


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