[キャンプ場にて]

今でも現実感がないんだが。

黒姫って知ってるか?
高校の時そこでキャンプ張ったことがあった。
小さなロッジも借りててえっちしたいやつらはそっちな!って具合。
このロッジってのがまあそこらの木切り出して建てたみたいなおざなりな建物で。
隙間っ風が吹きすさぶ、今の季節考えると実に寒々しいものだった。
到着した時開けたら栗鼠が飛び出してきたレベル。

俺らが建てたテントはハウス型二つつとドーム型四つ。
ドーム型はパートナーのいないシングル(笑:俺含)がはいって、
えっちはしなくてもカップル成立なやつらはハウス型に寝てた。

三日目の早朝目がさめて外に出ると、ハウス型のテント一つがなくなってた。
防水シートだけそのまま残されてた。
寝ぼけてんのかなと思って目ごしごしこすってみても同じ。
で、よくみると他のテントもなんだか様子がおかしい。

そしたら、聞こえたんだ。
蚊のなくような声で。
「こ っ ち へ こ」
思わずぶるっちまってあちこち見るがどこから聞こえたかわからん。
とにかく怖くてロッジに駆け寄ると。
開けようと思った扉が自然に開いて、その中に無理やり吸い込まれた。
中で見たのは、代わり映えのないみんなの姿。
みんななんか泣きじゃくってて、おまえよく無事だったとか抱きつかれた。
事情のみこめないが、なんかその喜び方が嬉しくってもらい泣きした。
とりあえず俺をひっぱりこんだシングルの娘が手首痛いほど強く握って離さないから、
それとなく痛いって伝えて離してもらった。

事情がのみこめなかった俺がきいてみると、熊がでたんだそうだ。
キャンプはったのが12月下旬の冬休み突入時だったから、
そういうときに出る熊って冬眠できないほど腹減ってるか、冬眠失敗して凶暴なんだってな。
熊は俺たちが用意してたバーベキュー用の肉にまず喰らいついて。
他の食料も食い荒らしたんだと。
そこで一人が物音に気づいて目が覚めて、皆起こしてロッジに逃げ込んだが。
快眠快便が唯一無二の俺だけは熟睡してたってわけ。

「あの熊おまえのテントの周りぐるぐる回ってたんだぜ。」
「どうして起こしてからいかなかったんだよ!」

喜ばれた事の嬉しさなんてどっかふっとんで喧嘩になった。


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