[かくれんぼ]
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それを聞きつけた鬼は、祖父の隠れていた部屋で音がしたものと間違え、再び部屋に戻ってきました。
突然の物音に呆けていた祖父は、あっけなく鬼に見つかりました。

鬼は祖父を見つけたあと、一階の残り二部屋、再び台所を探した後、二階へと向かいました
物音が気がかりな祖父は、鬼のあとについて一緒に二階へ。
どの部屋にも荷物が積まれ、鬼はその中をくまなく探しました。


ですが、いずれの部屋にも、兄はいませんでした。

残った部屋は「あの部屋」だけでしたが、余所様の家で出入りを禁じられている部屋です。
強い確信を持ちながらも、鬼はその部屋の襖すら開ける気にはなれませんでした。
部屋の前から「***くん、そこに隠れてるだろ」と呼びかけるも返事はなく、
目で合図を受けた祖父は、「ここに隠れてるはず」と返す。


そんなやり取りの中で、襖の向こう、部屋の中から「カタ、コトン」と硬い音がしました。
その音に後押しされ、二人は襖を、勢いよく、開けました。

部屋には一つの荷物も無く、人の気配も無く、本当に何もありませんでした。
奥に一つ押入があり、ためらいがちに部屋に踏み入った二人は押入の戸を開きました。


むわっ、と何か塊になったような空気が流れ出してきました。
ですが、押入の中に期待していた兄の姿はなく、ただ一つ、小さな水(酒?)の入った杯が置かれていました。
言葉にできない気味の悪さに包まれ、二人は逃げるように部屋を後にしました。

結局、兄は見つかりませんでした。


部屋と言う部屋、人の隠れれそうな場所は何度も探し、呼びかけました。
離れだけでなく、母屋も必死になって探しました。どこに兄の姿はありませんでした。

事態に怖くなった二人は、家の者が帰る前に外へと出ました。
兄が見つからなかったら、こう言おう。「今日は二人で外で遊んでいた」。

夕方、帰ってきた両親と姉。
兄を探す母に「***はどこ行ったの?」と聞かれましたが、知らぬ存ぜぬを通しました。
夜になっても帰らない兄を、父が探しに出かけました。
夜も更けて、未だ見つからない兄を隣近所の大人も探しました。

家は一晩中せわしなく、祖父は後ろめたさと得体の知れない恐ろしさに、布団の中で震えました。
朝を迎えても兄は見つからず、家には近隣の大人や警察があわただしく出入りを繰り返しています。

昼を過ぎる頃、自分の隠していることの重みに耐えかね、母の姿を探しはじめたその時
「見つかった」と言う知らせが飛び込んできました。


兄は死んでいました。


兄は村のはずれを通る川の下流で、死体で発見されました
溺死と判断されたその死体に外傷はなく、しかし、何故か足は裸足でした。


ここまでが祖父から聞いた話。

「あそこはおとろしい(恐ろしい)ところじゃから、いったら(入ったら)いかんで」

と、話し終えた祖父は私と隣家の子に、優しく強く言い聞かせました。
私たちは二度と離れに入らないと約束しました。


祖父から聞かされた話は、私にとって非常に恐ろしい思い出として心に残っています。
ですが、その話を聞かなくても、離れに入ることはなかったと思います。
祖父に声をかけられる前に、私たちは「かくれんぼ」をやめていました


一階東の部屋に隠れた要領の悪い私を、隣家の子はすぐに見つけました。
次の鬼を決めるためにジャンケンをしようとしたその時、上の部屋から「ガタン」と物音。
恐る恐る様子を見に行った「あの部屋」の前で、確かに聞いたんです。

襖の向こうから「カタ、コトン」と硬い音を。


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