[磨りガラスの向こうの人影]
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人影が肌色は悪いがガッシリとした体格で水色の服を着ていて左手でドアノブを回しているのが分かるくらい濃くなった時に、叔父さんの胸の苦しさは限界に達した
我慢できなくなった叔父さんはベッドの上から這うようにして進んで寝室の扉を開けた
連日の経験から扉を開ければ苦しみから解放されると思ったのだ

果たして扉の向こうに立っていたのは叔父さん自身だった
叔父さんと全く同じ姿形、水色のパジャマを着ているのまで一緒だった
自分と違う点と言えば酷く体調が悪そうで肌色も悪く目には生気が無く苦痛に歪み助けを求めるような表情をしていた
「いや、これこそが今の自分自身の姿なのかもな」
そんなことを考えていると扉の向こうの叔父さんはいつもの人影と同じく溶けるように消えていった
そしていつの間にか胸の苦しさも消えていた
その晩は結局そのまま朝まで起きていた
朝一で職場に欠勤する旨を伝えると仕事が忙しくない時期だったこともあってすんなり許可された
叔父さんはそのまま病院に向かった
何故そうしたのか、それは叔父さんにも分からなかった
ただ本能的にとしか言えないという
叔父さんは丸一日かけて入念な検査をしてもらった
検査の結果、叔父さんは極度の狭心症を患っていて心筋梗塞の手前だと診断された
「お宅のように一人暮らしだと寝てる時に心筋梗塞を起こして誰にも気付かれずにそのままポックリってパターンも有り得たよ」
と医者に言われてゾッとしたそうだ
その時に叔父さんは全てを悟ったそうだ
オレは毎晩発作を起こして死にかけてたんだ
そしてオレの体から魂がどんどん抜けていってた
だが、そこはオレの魂
死んでたまるかとばかりにドアノブに捕まり寝室の扉の前に止まり続けてた
オレが扉を開ければ魂は体に戻りオレは生き返る
そりゃ扉を中々開けなければ魂はどんどん抜けていくから胸の苦しさも強くなるわな
その後、叔父さんは食事療法と投薬治療で完治
今ではその頃からするとかなり痩せてるし心臓も元気、何より叔父さんの体を気にかけてくれる奥さんもできた
最後に叔父さんの一言
人間ドックとかは絶対に定期的に受けた方がいい


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