[こっちだよ]
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「でかしたヒロ、見せてみろ!!!」
藤原君が嬉嬉として走って行く。俺も追いかける、が。
「あいだっ!!」
なにかにつまづいてすっころんだ。あっという間に藤原君達は闇に消え、俺は取り残された。不安になって半泣きになり、
「藤原君ー!!ヒロミちゃーん!!」と何度も叫んだ。すると、
「こっちだよ」
女の子の声が後ろからした。
だが、まさかその声の主がヒロミちゃんだなんて俺は全く思わなかった。先に進んで行ったヒロミちゃんが、このわずかな隙に俺の後ろに回れるわけもない。
つまり、後ろにいるのは。

「うあぁあああ!!」
俺は絶叫して走った。振り返る勇気もない、ただ走るしかなかった。
「こっちだよ、ねえ、こっちだよ」
相変わらず声は聞こえてくる。しかも段々迫ってくるように感じた。

「 こ っ ち だ っ て ば あ !!! 」

ひどく掠れた声が耳元に鳴り響いた。
「藤原君藤原君藤原君藤原君!!!!」
俺は藤原君の名前を叫びながら走った。そんなに長いトンネルでもないのにひどく遠く感じた。
前のほうに藤原君とヒロミちゃんらしき影が見えて、更に走った。
「どこ行ったか思たら、何してんの」
ヒロミちゃんがキョトンとした顔で俺を見ていた。手には赤茶色のススキが握られている。
「ひひひひろみちゃんふ藤原君帰ろうよ」俺は息切れしながら言った。しかしヒロミちゃんはゲラゲラ笑い出し、
「なんでよーまだ来たばっかりやん。やっとススキも見つけたんやで、ほら」
といった。しかし。
「…ヒロミ。佐倉。走れ」
藤原君がボソリと呟いた。差し込まれた月明りに照らされた横顔は、ひどく青ざめていた。
「ふ、藤原くん?」
「 い い か ら 走 れ !!!! 」
藤原君は怒鳴るなり俺とヒロミちゃんの手を引いて走り出した。藤原君の長い前髪から覗く瞳はひどくつり上がっていて、ものすごく焦っているのがわかった。
あの藤原君が青ざめている。それは俺にとって背後の何か以上の恐怖だった。藤原君が怯えるほどの何かが、ここにはいる。それがすごく怖かった。
「もう…何なんよ、いきなり…」
ひたすら走ってトンネルを抜け、気がつくと病院の裏手に出ていた。ヒロミちゃんは未だに意味がわからないらしくキョトンとしている。
「久し振りに凄まじいのを見たよ」
息を切らしながら藤原君が言う。
「自殺した女の子なんて可愛らしいもんじゃないね。相当恨みが深いのか、ただ無邪気なだけなのか」
「無邪気…?」
「子どもだよ。5、6歳の子ども。最も顔半分は裂けてるし、可愛げなんか欠片もないけどね。キミが随分お気に入りだったみたいだよ」
藤原君がニタリと笑った。俺はひどくゾッとした。あの声が耳に蘇る。
「こっちだよ」あの声に反応していたら今頃俺はいなかったかもしれない。そう思うと尚更恐怖を感じた。

「キミだけが連れてかれるならまだしも、あのままなら僕やヒロミも危なかったからね。ああ怖かった。」
藤原君はヤレヤレと言った様子で歩いて行った。僕も後に続く。
「なんか意味わからんわ。あたしだけハミーにされてるやん」
とヒロミちゃんは文句を言っていた。
ある意味彼女が一番最強な気がした。

もし名古屋在住のオカ板住人がいたら、一度行ってみてほしい。
俺も藤原君も、責任は取れないが。


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