[サヨナラ]
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現に、ひとりで走った絶えがたい恐怖は、安心に変わっていた。
走って走って、霊園を抜けた。霊園を抜けるともう提灯は追いかけて来なかった。僕ひとりだったなら確実に捕まっていただろう。ナナシにものすごく感謝した。ありがとうと何度も呟いて、泣いた。
「もう怖くないよ。怖いものは、もういない。怯えなくていい。」
ナナシは言った。僕は、余計に泣いた。
僕は知ってる。ほんとにそう言って欲しいのは、否、ほんとにそう言って欲しかったのは、あの頃のナナシだったこと。ヘラヘラ笑いながら怯えていた、幼かったナナシだったこと。

なのにあの時僕はそれに気付かずにナナシを頼ってばかりでいた。あの時気付けていれば、ナナシはあんなことをしなくて済んだのに。僕が許せなかったのは、あの時のナナシではなく、あの時の僕だったんだ。僕は、目の前のナナシに何度も謝った。
ナナシは大人になっても、やっぱりヘラヘラ笑った。
「じゃあ、気をつけて」
ナナシは駅まで僕を見送ると、ヘラヘラ笑って帰った。僕も手をふり、駅からタクシーで実家に帰った。また、ナナシとあの時のように友達に戻れるかもしれないと、少し期待を抱きながら。
次の日、僕は母の命令で祖父母の墓参りに行かされた。場所はあの霊園。正直目茶苦茶行きたくなかったが、仕方なく行った。昼間で明るいと霊園は綺麗に手入れされていてちっとも不気味じゃなかった。
中ほどまで進むと、僕は何かに躓いた。昨日の墓石だ。
「昨日も今日も、蹴飛ばしてゴメンな」
謝り、墓石を見た。
そして、僕は泣いた

そこには紛れもなく、ナナシの名前が刻まれていた。一年前の昨日に、亡くなっていた。
僕は泣いた。泣いて泣いて泣きわめいた。 僕の親友は、もうどこにもいない。あの背中は、もうどこにもない。
結局僕は一度もナナシを救ってやれないまま、
最後までナナシに救われていた。

僕と、僕の親友の話は、これでおしまい。


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