[自慢のノイズ]
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もちろんそんなギタリスト、バンドで戦力になるわけもなく程なくしてクビにされた。
さっきも書いたけど、仲間全体仲がいいので、話はAのバンドのリーダーから聞いたが、理由なんて尋ねるまでも無い。早急に切り上げてしまった。
今考えると、これがそもそもの間違いなのだが。そこらへんから、Aの姿を見る機会がグンと減った。
変わりに電話がくる回数がハンパじゃなくなった。
1日20件とかザラだった。今は仕事もやめて暗い部屋で一人でギターノイズの研究をしているらしい。
さすがに異常だと思った。Aの家(アパートでひとり暮らし)に行ったが、人の気配がない。ひっそりとしている。
ドアにも鍵がかかり、郵便物も溜まっている。
「まさか夜逃げでもしたんじゃねーだろうな…」なんて思いながら、Aのアパートからの帰り道、ケータイが鳴った。
Aからだった。

俺 おい!お前どこにいんだよ!家にいるんじゃねーのかよ!」
「A  いるよ…ずっと…」
「俺 ウソつけ!俺たち今お前んち行ってたんだぞ?誰もいねーじゃん!」

そこまでいうと、Aがいきなり動揺しだした。勝手に来ちゃまずかったかと思ったが、どうもそうではない。
「そんな…」と「ウソだ…」のせりふを震えながらずっと繰り返していた。
と、突然狂ったように騒ぎ出した。俺は必死で宥めた。
「俺 おい、おちつけよ!どうしたんだよ!!」
しばらくそんなことやってると、急に、本当に急にAがものすごい小さな声で、おそらくこういった。

「A 俺は…帰ってなかったんだ…」
ブツッと電話が切れる。俺たちちんぷんかんぷん。
そして、その日の夜、家で晩飯くってるころ、また電話が鳴る。今度はうちのボーカル(B)からだ。

「B  おい、今すぐ○○病院これるか!?Aが目を覚ましたぞ!」
「俺 ???なに?それ?」
「B  なにってお前…知ってたんだろ?アイツ事故って入院してたの!」
「俺 はぁ!?なんじゃそら!!」

そう、俺はAがバンドをクビにされたとき、Aが狂ったからクビにしたんだと思ってた。
だからあえて事情も聞かなかったし、向こうも察して話さなかった。
でも、そこに違いがでてたんだ。

本当の話はこうだ。
はじめ、俺がAをスタジオから送っていった日から2日後。アイツは事故にあった。
さすがに事故の詳細まではわからないが、それから今までずっと意識がなかったんだそうだ。
バンドもヘルプのギターを入れてただけで、Aが復活したら元のラインナップに戻るそうだ。
ちょっとまて、じゃあ、あの電話…
と、ここで終わればただのつまらんオカルト話で終わるんだが、微妙なオチがつく。
Aと面会できるようになって数日たって、俺はAの病室を訪ねた。
そこには、前と変わらないAがいた。
両足骨折の重症なのに、両手はほぼ無傷。担いでたギターもとっさにかばって、ギリギリで壊れてなかったらしい。
「ギタリストの鏡だなwお前ギターさえもってなければもっと怪我軽かったんじゃね〜の?」などと軽い談笑しながら、
恐る恐る聞いてみることにした。

続く