[首]
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ドアを開けたポーズで完全に固まっていた私は、慌てて凄い勢いでドアを閉める。
背中にはシャツがべたべたになるほどの冷や汗をかいていた。

マネキンの首が、勝手に起き上がった…?


半泣きになって動けないでいると、ドアを閉める爆音に驚いた父がこちらに近寄ってくる。
「どうしたんや、そんな勢いでドア閉めたら壊れるやろー?」
こっちは死ぬほど驚いているのに、なんとも暢気な物である。

マネキンの首の事を、恐怖にどもりながら伝えると、父は少し真面目な顔をして
「今日はもう帰ろうか。」
と言って、皆に片付けの指示を始めた。

その後、裏口ではなく表にある店側の出入り口から店を出た。


次の日の夕方、植木屋が伐採した枝葉と共に、マネキンの首を引き取ってくれる事になった。
植木屋が父の顔見知りだったらしく、一緒に焼却処分してくれるという事だった。


後日、お店が開店をしてオープン後のばたばたが過ぎた頃に、マネキンを引き取ってくれた植木屋さんがご飯を食べに来てくれた。その時に、ふと例のマネキンの事が話題に上った。

「そういえばあのマネキンの首、うちの大将(植木屋の社長)が見て驚いてたで。」
「え、何がですか?」

「俺はそういうの信じてへんねんけどな、大将は霊感っちゅーのがあるらしくって、マネキンの首見て『えらいもん引き取ってきたな!』てびっくりしてたわ。アレ、相当危ないもんやったみたいやで」

「それで…?」
「うん、まぁ近いうちに焼くかぁと思って、焼却炉の上に転がしておいたんやけどな、次の日その前通ったら、マネキンの首が起き上がっててん!びっくりしたわー。
夜中に作業場の辺りは近所の奴は入れへんし、スタッフの誰かが触ったんか思て聞いて回っても誰も触ってないって言うし…
社長が早く焼いて来いって言うから、その日のうちに焼いたわ。」

焼く前に、マネキンの首に日本酒をかけたらしい。気休めのお清めだそうだ。


秋になり、マネキンが居座っていた柿の木に実が成った。
試しに食べてみるとめちゃめちゃ美味かった。

「この柿使って秋限定パフェ作ろうかな。タダやし。」
「…やめといた方がいいと思うけど…」

結局、秋限定パフェは出なかった。


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