[棚の向こうの人]

怖いってか不思議話
実体験です。
中学3年の時、夏休みの終わり頃に、宿題をやりに近くの市立図書館に通っていた。
冷房なんかは完備されているが、レンガ造りの古めかしい建物だった。
天井近くまである本棚が平行に幾つも並んでいて、普段から薄暗く独特な雰囲気
のある所だった。この本棚が、よくある造りの両面に本を収納できるタイプのもので、
真ん中には仕切り板がなかった。つまり、両側から同じ棚の同じような高さの本を
抜くと、反対側の人と目が合ってしまうような状態である。
その日も課題に使う本を手当たり次第引っこ抜いていて、ある厚めの本を抜いた時に
反対側にいた女性と目が合ってしまった。なんとなく気まずいのでお互い曖昧に会釈して、
その時は何とも思わず学習室へ戻ったのだが、鈍い私はその本を棚に戻す段になってようやく
おかしな事に気がついた。

その本があったのは図書館の東端、つまり棚の向こうは本来なら壁のはずだったのだ。
本を戻すついでにまじまじと見てみるが、棚の向こうはやはり壁。
記憶違いなのか?と思いながらもその日は一旦家に帰る。
翌日また同じ本が必要になり、引く抜く時に多少緊張したものの、やはり棚の向こうは壁だった。
気のせいだったと自分に言い聞かせながら学習室で本を開き、しばらくそのまま固まってしまった。
巻末の著者近影にて恥ずかしそうに微笑む女性は、正に昨日自分が会釈したその人だった。
彼女は20年以上前に亡くなっていて、その写真はもう近影ではなかったけれど。


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