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何度目かのこの文章をめくると、次のページにはかなり核心に近づく展開があ
った。
「次は、ボーリング場です」
また自転車にまたがる。
この時点で彼女に俺の推測を告げるか迷ったが、表情を変えずに自転車をこぐ姿
を振り返って、思いとどまる。
やはり彼女は苦手だ。何を考えているかわからない。
自転車から降り、何度か来たことのあるボーリング場に入る。
「プレイは?」
「ここでは店員に話を聞くだけのようです」
少し、やりたそうだった。
それを尻目にカウンターに向かう。
「ああ、多分わかりますよ」
師匠の名前を告げると、あっさりと調べてくれた。茶髪の若い店員だった。
客のプライバシーなどどうでもいい程度の教育しか受けていないのだろう。もっと
も今はそれが有難かった。
しばらくすると、師匠の名前がプリントされたスコアが出てきた。日付は3日前
で、午後2時。やはり。以前一緒にボーリングをやったとき、本名でエントリー
していたのを覚えていたのだ。
師匠のGの多いスコアなどどうでもいい。
俺と彼女の視線は、もう一人の名前に集中していた。

  それはどうぶつの名前だった。

その通り、「ウサギ」という名前が師匠の横に並んでいた。

ゲームセンターから感じていた引っ掛かりがほどけていく。
プリクラ、流行の雑貨屋、ネタ系の喫茶店。
まるきりデートコースじゃないか。
そして動物の名前でエントリーするなんて、若い女性と相場が決まっている。
俺は恐る恐る彼女の顔を盗み見たが、その表情からは心中を推し量ることは出来
なかった。
師匠よりもGの多い「ウサギ」のスコアから、いやらしさのようなものを感じて、
思わず目を逸らした。
なんとなく二人とも無言でゲームセンターを後にする。

  心の準備が出来るまで次のページには行かないほうが良い。

本当に心の準備が要った。
そして俺は、天を仰いだ。
行けと?
ラブホテルへ?
彼女をつれて?
迷いというより、腹立たしさだった。
そんな俺の混乱を知ってか知らずか、彼女は「次はどこ? 行きましょう」と言
うのだ。
行き先を告げないまま、暗澹たる思いで自転車をこぐ。
ホテル街へ踏み入れた時点で、彼女もなにが起こっているかわかっただろう。
近くの駐輪場に自転車をとめて歩く。
彼女は黙ってついてくる。
その名前が、あまり下品ではなかったことなんて、なんの慰めにもならない。あ
っさりと見つけた看板の前で立ち止まって俺は真横に指を伸ばした。

続く