[田舎 中編]
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ヨソモノヨソモノ。
そんな声が聞こえた気がした。
それも含めて、俺は早くここを立ち去りたかった。率先してもと来た道へ進んで
行き、民家のそばに停めてあった車に乗り込む。
ようやく嫌な感じが収まった。
師匠は上機嫌でエンジンをかけ、ふたたび蛇行する山道を登り始める。CoCoさん
はなにを思ったか京介さんの絆創膏をつっつき、「痛いって」と怒られた。
(ほんとうに傷口があるのか確かめた)
助手席に身を沈めながら、後部座席のやりとりにふとそんなことを思う。ミラー
にうつるCoCoさんの表情からはやはりなにも読み取れなかった。
伯父の家に帰ると、従兄妹のハツコさんが来ていた。伯父夫婦の長女だ。
年が離れていたのであまり印象は残っていないが、今は同じ集落の家に嫁いでい
るらしい。
「今日は応援」と言って小太りの体を機敏に動かしながら、伯母の炊事を手伝っ
ている。
俺たちはというと、夕飯までの時間をそれぞれの部屋で過ごした。
ろくに泳いでいないのに俺はやたら疲れていて、ウトウトしっぱなしだった。
ほどなく茶の間に呼ばれ大所帯での食事が始まった。
近くの山で採れた山菜をふんだんに使った田舎料理は、実家の母が作るものより
「お袋の味」がして、なんだか感傷的になる。
俺たち4人と伯父夫婦。ハツコさんとその小さな子ども。そして実にタイミング
よく現れたユキオ。9人で囲む食卓だった。
なにが凄いって、その人数で囲めるちゃぶ台があることだ。
「いまはもう、こんなでっかいのがいる時代じゃないけんどのう」
と伯父は苦笑した。
この家にはあと一人、ジッサンと呼ばれるお爺さんがいるのだが、寝たきりに近
いらしく食卓には出てこない。
ジッサンと言っても俺の祖父にあたる人ではなく、祖母の兄らしい。らしいとい
うのは、会ったことがないからだ。身寄りがなくなっていたところをこの家で引
き取ったそうだ。俺の足が遠のいてからのことだった。
「にゃあにゃあ」
ユキオがひそひそと口を寄せて来る。
「どっちが彼女なが」
これには彼なりの期待も含まれているのだろう。京介さんCoCoさんも一般的には
美人の部類に入るだろうから。
「どっちも違う」
そう言うと喜ぶかと思いきや、残念そうな様子で、
「両方あの兄さんのか」
と溜息をつくのだ。
「片方だけ」と言ってやると、「ふーん」と鼻で返事をしながら肉系ばかりを箸
でかき集めていった。
その時、家の外に犬の遠吠えが響いた。
「あ、リュウの晩御飯忘れちょった」
そう言って伯母が腰をあげようとするとハツコさんが笑って先に立ち上がった。
俺はふと思い出して、伯父に祖母の葬式の時にリュウがいたかどうか聞いた。
続く