[浮かび上がる文字]

俺の人生で唯一の実体験です。
ここの人たちにはあまり怖くないかも知れませんが聞いて下さい。
俺が大学に入ったばかりの頃の話です。
ある日サークルの皆と怖い話をしてたら、先輩達数人が寄ってきてこの大学にまつわる怖い話を教えてくれたんです。
怖い話はいくつかあって、先輩達は皆知ってるお馴染みの話みたいでした。
俺は怖がりだけどこういう話は好きだったんです。
その中の一人の女の先輩が話の最中急にワッ!とか言って脅かす訳。
そんな子供騙しにビビる俺を見て面白がったのか、「夜、見に行ってみよっか」
と俺を誘ってきたんです。
俺はあまり行きたくなかったけど、その先輩に下心を感じたので行くことに。
夜7時に待ち合わせして現場へ。
そこは女の子が自殺したという校舎で、その子は飛び降りる前に壁に『さよなら』と書いたのだそうです。
そしてその文字は消そうとしても消えず、いまも残っているのだというのです。
構内にはいろんな学部の棟があって、俺にとっては縁の無いエリアも多く、
そこもまた足を踏み入れた事のない場所でした。何の建物かは分からなくて、
周囲は結構草が伸びててあまり使われていない様子でした。
そして建物を少し回ってゆくと先輩がここだよ、と言います。
壁の文字はありました。まだ薄明るかったので懐中電灯無しでもよく見えました。

目線ほどの高さにかなり大きくさよならと書いてあります。
本当にそんな字があった事にちょっと驚きました。でも正確には『さよーなら』と書かれてるんです。
俺は先輩に、なんかさよーならって伸ばしてません?緊迫感無くないっすか?
と言うと先輩もクスクス笑う。さらに続けて、
妙に字でかくない?とか、てっきり屋上のカベとかに書いてあると思ったんだけど、
この人まず下で書いてから上に登ったんですかね?それにこれってスプレーでしょ。
校舎のカベにスプレーで落書きってw盗んだバイクで走りだしそうじゃないすか?
これから自殺する人がしますかね?とひとしきり冗談を言い二人で笑いあいました。
結局これはこの有名な噂を知っている人のいたずらではないかと思われました。
「でもあの文字消してあるよね?」と先輩が言います。

続く