[本]
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それでも、怖いもの見たさもあったのか、僕は書かれた文章を読み上げた。
そのとき、聞き慣れた声がした。
「あんたたち何してんの?」
窓枠に寄り掛かり僕らに声を掛けてきたのは、他ならぬアキヤマさんだった。
「面白そうじゃない、あたしも混ぜてよ」
窓枠に足をかけ、中に入ろうとする。怪しい行為をしていた最中だったのでにちょっと僕もビビッたが、
久しぶりにアキヤマさんと話せることが嬉しくて、僕はアキヤマさんに駆け寄った。
そのとき。
「アブないぞ、ソレ。」
ナナシがアキヤマさんを指差した。そのナナシの物言いにカチンと来た僕は、ナナシに抗議した。
「ソレってなんだよ、おま…」
「よく見ろよ、ソレはどっから来た?」
「どこって窓からに決まって…」
そこで、めちゃくちゃ遅ればせながら気付く。ここは視聴覚室。
----3階だ。

『コレ』は、アキヤマさんじゃない。そう気付いた瞬間、「ソレ」は酷く歪んだ笑顔で、体をクネクネさせながら僕に近づいてきた。白目に赤い筋がたくさん浮かび、それでも口元は笑っている。
「うぁあぁあぁあ!!!!!!」
僕は無我夢中で『ソレ』を払いのけ、外に押し込み、窓を閉めた。途端、けたたましいくらいにガラスを叩く音がする。

…内側、から。
「ナナシ!!!ナナシ!!」
僕は半狂乱になりながらナナシを呼んだ。ナナシなら助けてくれる、と漠然に思った。でも、ナナシは僕を見て笑っていた。
「ははははは!!最高だよお前!!!!!」
僕は本気でナナシに殺意を抱いた。

気がついた時、僕は汗だくになって床にヘタリこんでいた。ナナシが自分のTシャツで汚いものを拭くかのように僕の顔を拭っていた。
「結局、あの本は何だったんだよ」
叫び過ぎて掠れた声で、僕はナナシに聞いた。ナナシはヘラっと笑うと、
「降霊術みたいなもんさ」
と言った。
「会いたいものを呼び出せる呪文と方位がのってる。さすがに犬皮使ってる本だから、ヤバそうだとは思ったけど」
いろんなヤバイモンが詰まってるよ、コレ。
ナナシは笑って言った。
「俺じゃなくて、本持ってたお前の会いたいやつが出て来たのは誤算だったな。まあ、中身は違うけど。お前、よっぽどアキヤマに会いたかったんだな。」
ナナシはそう言うと、またヘラヘラ笑いながら本を抱えて歩いて行った。
ちょうど下校の鐘が鳴って、僕もナナシの後を追う。前を歩くナナシの背中を見ながら、僕は思った。
『いろんなヤバイモンが詰まってるよ、コレ。』
『俺じゃなくて、本持ってたお前の会いたいやつが出て来たのは誤算だったな。』

そこまでして、ナナシは

一体 なにを 呼び出したかったんだろう?

その答えを知ることになるのは、もう少し、先の話。


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