[自転車]
なんの脈絡も無いけど、恐い経験をしたって友人の話。
友人のYは通勤のために、自宅から駅まで自転車を使っている。
ある日、最終電車で帰ってきたYは深夜の道を駅から自宅へ向けて走っていた。
家まであと10分くらいの所に坂道があって、自転車にはちょっとキツイ場所だった。
坂道の前方には一台の自転車が走っていた。女だった。
Yは即座に「追い越してしまおう」と思った。深夜に後ろからずっとついて来られると
女は痴漢とか思って恐くなるだろうから、思い切ってスピードを上げて走り抜いた方が
良いだろう、と考えたのだそうだ。
坂道でダラダラ走っていると、長い時間後ろにくっ付いた状態になる。これは変に誤解
を招く事になる。
坂道の途中で女を追い越した。ワザとらしいかとも思ったが、追い抜く寸前にはリンリンと
ベルまで鳴らして合図もした。勿論女の方に顔を向けない配慮も怠らなかった。
坂を登りきって下りに入った。ここから先は両側に森があって真っ暗な道がしばらく続く。
ふと気が付くと、後ろから女がついて来る気配がする。自転車のキイキイいう音がするのだ。
「あいつ、恐くなって1人がイヤになったな。オレの後をついて来てこの森を抜けたい
のだろう」と思った。と同時に痴漢と勘違いどころか、頼りにされた事にちょっとうれしく
なったYはスピードを緩めて女でも楽について来られる速度を保った。
「おや?」とYは思った。後ろの自転車が追い抜いてくる様に感じられたのだ。ま、それなら
そうで好きにさせておこう、と思った。自転車がYを追い抜いた。
「ゲッ!」と思わず言葉が出た。横を、それこそYの顔をかすめるくらいのそばを二人乗りの
男が通り過ぎて行ったのである。しかも二人の男はYの方を見てゲラゲラ笑っていた。
仰天して後ろを振り返ると、さっきの女の自転車は居なかった。
もう一度前を見ると、二人乗りの男達も消えていたそうだ。