[オギソ]
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講堂と同じく、二階は下の机が散乱した部屋を見下せる構造になっていた。
逃げようと思ったが、オギソが開けようとしていたドアは大量のガラクタに塞がれて開かなかった。
俺たちは息を潜めてガラクタの隅で小さくなっていた
二階には隠れられそうな物陰も無く、覗き込まれたら即座にアウトだった。

やがて、奴の声が遂に部屋の中に侵入してきた。天井に懐中電灯の光が映るのが見えた。
もちろん俺たちのものではない。オギソの懐中電灯だった。
俺たちを探しに来たのか?と思う。俺たちは既に半泣きだった。ただ、声は出さず、息も最低限に抑えていた。
下でオギソはなにやら作業をしているようだった。椅子を激しく蹴り飛ばす音や、何かをする音が聞こえていた

突然、オギソとは違う叫びが響いた。その声は女、しかも俺たちと同じ年頃くらいの声だった。
ぎゃーぎゃーと、泣き声で、今思えば「痛い」とか「助けて」とか叫んでいたように思える。
下で何か、蹴ったり叩いたり、それだけではない不気味な音が沢山聞こえたような気がした
だが俺たちは萎縮しきっていてそれを確かめる事は出来なかった。
そのまま、何時間もオギソと、その女の声を聞き続けることしか出来なかった。女の声は途中で止んだように思えた

女の声が止んでからどれだけ経ったか、オギソがようやく動き始めた。
行きと同じく、机を蹴り飛ばしながら、ドアノブを滅茶苦茶に回しながら。
声は少しずつ遠ざかりながら、そして俺たちの隠れている二階の近くの屋上を通って、そしてまた遠ざかっていった。
最初、俺たちは動かなかった。罠に思えたのだ、そのまま何時間もそこにいた。
そしてやがて、眠っていた。

眼を覚ますと、窓に打ち付けられた合板の隙間から光が見えた。もう朝だということが分かった
オギソの声ももう聞こえなかった。俺たちはようやく立ち上がると、一階に降りた。
そこには血と、大量の汚物が転がっていた。それだけだった。女がどこにいったのかは分からなかった
俺たちは皆、そこで吐いた。そして、何か悪い事をしたような後味の悪さに襲われていた

結局、俺たちは無事に家に帰ることが出来た。Aの親にも何も言われる事は無かった。
オギソを見たという話もあまり聞かなくなり、俺は一度もオギソを見ることは無かった
だから、俺たちはあれを秘密にすることにした。

一つだけ忘れられないTV番組がある。それは他愛も無い番組間の地方ニュースだった。
アナウンサーが俺たちの住む町の近くで同年代の女の子が行方不明になったことを知らせていた。


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