[音の主]

あんま怖くないけど小さい頃に体験した話。
俺の実家はドがつく田舎で、四方八方たんぼやら山やらに囲まれている。
お盆の季節になると仏壇にお供えするしきびって植物を採るために、近くの山までじいちゃんが取りに行くんだけど、幼い俺はその機会によくじいちゃんに山に連れていってもらっていた。
その山ってのがほんと険しくて、道はあるっちゃあるんだけどものすごく狭い。
しかも急で険しいし植物が生い茂っていて視界が悪い。当然舗装なんてされてないから石がごろごろ。
じいちゃんはそんな山道をバイクで登っていった。
車で行きたいってのが本心だろうけどさっきも言ったように道が狭いからそういうわけにもいかない。
だから俺はそんなじっちゃんのバイクの荷台に乗って山に連れていってもらっていた。正直乗り心地は最悪だったね。ガタガタ揺れまくりでケツは痛いし道の方に突き出した枝がいつ目に刺さるんじゃないかとヒヤヒヤしてた。
それにも関わらず山に行く理由は、単純。きれいな川で水遊びが出来るから。あとこれはおまけみたいなもんだけど、じいちゃんの身に何かあったらってちょっと心配だったんだよね。

まあとにかくそんなわけであの日も二人で山にでかけた。
しきびを採る場所ってのは毎回同じで、結構な時間登ってるとダムがある場所にたどり着く。行き止まりなんだけど開けた場所になってるからそこに一旦バイクを止めて、今度は身一つで道から外れた林(?)の中に入ってじいちゃんはしきびを採るんだ。
その間俺は待機。何するわけでもなく、木々の中に入って姿の見えなくなったじいちゃんが帰ってくるまでただひたすら待つ。
「迷子になっちまうから、ここら辺から動くんじゃねぇぞ」って、ここに来る度じいちゃんに釘さされてた。俺はそれを忠実に守っていた。とは言っても虫探したりしてほんのちょっとはうろつくんだけど。
お盆の季節だけあって、暑い。蝉の声が何百何千って重なって聞こえる。川の水が流れる音やブーンという虫か何かの羽音。
視覚にも聴覚にも、とにかく体中で夏を感じながら俺は一人で虫を探していた。
じいちゃんと別れてから15分くらい経っただろうか。
俺は妙な音を聞いた。
がさがさというか、ザザザザとかそんな感じの音。
林の中から聞こえてくる。じいちゃんが帰って来たのかなって思った。いつもは30分くらいはかかるから今日は早くしきびが見つかったんだなーなんて考えながら、「じいちゃん?」って林に向かって呼んでみた。
返事がない。聞こえなかったのかな?

続く