[うなり声]

長男は私たち兄妹の中でも1番、霊感が弱く、見えない人物だ。
不思議な現象など数える程しか体験したことがない。
そんな長男が体験した話。

夜、学校の近くの神社で、兄は友人3名と、煙草をふかしていた。
深夜徘徊、喫煙、飲酒は高校生なら避けて通れない誘惑。
兄もその誘惑に負けた人間のひとりだった。
免許をとったばかりの真新しいバイクを神社のそばに止めて、
仲間たちとの会話と煙草の煙が浮かんでは消えていく。
そんな青春の1頁とも言える時間の異変に、気付いたのは兄だった。
「何か変な声聞こえないか?」
兄が尋ねる。
「は?全然聞こえないけど」
「気のせいだろ」
仲間が口々に言うが、ひとりだけ兄に賛同する。
「俺も聞こえる。唸り声みたいなの」

その声は徐々に大きくなっている様に感じられた。
ひとり、またひとりと声を聞いた人数が増える。
「やばいって…」
「とりあえず出るぞ!!」
一斉に荷物を掴んで走りだす。
「コンビニ!」
誰かの声に、兄たちは神社の隣のコンビニに駆け込んだ。

この話を聞いた時に、兄から聞いた。
「皆ビビるから言わなかったんだが、神社を出る直前、
唸り声が、帰れ、と聞こえた」


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