[工事現場]

この話は今から約20年前、
私がまだ中学生だった頃出来事です。

夏休みも後1週間程となった8月の終わり
ろくに宿題も終わっていないにも関わらず、友人2人と近所の市営プールに
遊びに行くことになった。
30度を超す熱気と、私の自宅正面の家でここ1週間程行われている
駐車場工事の騒音とで、とてもじゃないが家の中で友人を待っている事が出来ず
1時間ほどゲーセンに行こうと表に出た。
すると、顔見知りとなっていた工事現場の男性が
パワーショベルの操縦席から気さくに声をかけてきた。

『よう、ボウズ宿題は終わったのか?』

ここ最近の日課のような挨拶を交わし、私はゲーセンに向かった。

1時間ほどゲーセンで過ごし、昼飯を食べに自宅に戻ると約束していた友人2人が
先ほど挨拶をした工事現場の男性に怒られていた。
どうしたのか聞いてみると、約束の時間より早めにきた友人が、昼休憩で誰も居ない工事
現場のパワーショベルに乗り込んでいたずらをしていたらしい。
私が戻ってきた事をきっかけに2人は解放されたのだが、2人は相当こたえたらしく
プールに行く気がしなくなったから帰る、と言い帰ってしまった。
私はさして気にもとめず、自宅に入った。
それから数時間後、自宅の前がやけに騒がしいので、何事かと思い表に出てみると
どうやら正面の家の工事で事故がおきたらしい。
現場を取り囲む近所のおばさんたちの向こうで、作業服の人達があわただしく動いている。
『おい大丈夫かっ!』 『しっかりしろっ!』 『救急車はまだかぁッ!』 
怒鳴るような叫び声、呆然と立ち尽くす人、泣き崩れて我を失っている人・・・
その場の雰囲気から、簡単な事故ではない事を窺い知ることが出来る。
人だかりの隙間から覗き見てみると、一人の作業服の男性が横たわっている。
その周りを、同じく作業服の人間が数人取り囲んでおり、詳しい状況はわからないが
横たわった男性が周囲の呼びかけにもぴクリとも動かず、また作業服に
かなりの出血が見られることから、私は漠然とこりゃ駄目だろうなと考えていた。
程なくして救急車が到着し、救急隊員によって応急処置がはじまった。
どうやら頭部にかなりのダメージを負っている様なのだが、救急隊員や同僚の作業員
野次馬のおばさん達に邪魔され、男性の足元しか見ることが出来ない。
私は目の前の出来事を、まるでテレビの番組のようにボーっと眺めながら
ふと、倒れている男性はいったい誰なんだ、と思い始めていた。
作業員の顔は殆ど覚えており、野次馬の隙間から何とか一人一人確認してみると
いつも気さくに声をかけてくれる男性の顔が見当たらない。
ま、まさか!先ほどまでは他人事だったのが、急に身近なことに感じられ
変な震えが全身を襲ったことを覚えている。

続く