[ビジネスホテル]
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そこのホテルには、ある常連客がいる。釣り好きの明るい気さくなオヤジらしい。
彼が夜勤に入っている日、その常連客が酔っ払って帰って来た。すこぶる陽気なその客は
彼に一言二言話しかけ、部屋へ。
しばらくして、その常連客から電話があった。
なんでも、通路の一番奥の部屋の前で、赤いワンピースを着た女性が突然消えたということらしい。
彼は、「この酔っ払いが」と思いながら適当に応対し、電話を切る。
またしばらくして、例の常連客からフロントへ電話が。
「早く女を部屋に通せ!」と怒った口調で何か訳の分からぬ事を言っている。
彼にはサッパリ意味が分からず「何の事でしょうか?」とたずねた。
「とぼけるな!今さっき女性から部屋に電話があったぞ!」
どうやら、外部からその常連客の部屋に電話をしてきたた女性が居て、今フロントに居るから
直ぐに部屋に行くわと言ったそうだ。

が、外部から直通で部屋に電話する事が出来ない仕組みらしい。一度フロントを
通さない限り無理なのだ。もちろん彼は外部からの電話を受け取っていないし、
常連客の部屋へ繋いでもいない。おまけにフロントには誰も居ない。

この話をしている時の彼の顔は、引き攣った青ざめた顔で、その時の恐怖感を表していた。

次の日、何事も無かったかのように、その常連客はいつもの如く早朝釣りへと出かけた。
普通は昼過ぎか夕方に帰ってくるそうだが、その日は行って2時間も経たない内に戻って来た。
会社の上司の身内の女性で不幸があったから、通やへ行かなければならなくなったそうだ。
会計を済ませた常連客が言った。
「昨晩見た消えた女性といい、電話をかけてきた謎の女性といい、一体何だったのだろうか?
亡くなった女性の何かを暗示していたのだろうか?」
常連客は、そのホテルで飛び降り自殺があった事実を知らない。
謎の二人の女性と、亡くなった常連客の上司の身内の女性との関係も分からない。
彼はその後しばらく、その不気味なホテルでアルバイトをした。あの体験を忘れられないまま。

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