[Kの友達]

<K>はそんな遊びに来た事は無かったが。
だけどそれは新しい方の橋の話だ。<K>は古い方の橋の下にいたそうだ。
聞けば同じ地区のやつらは帰りに新しい方の橋から<K>っぽいやつがいつも古い橋の下にいるのを見ていたそうだ。
子供は馬鹿だなーとか思って放っておいてたんだけど、親にその話をしたらえらく気にして学校に通報したんだそうな。
<K>は昼に職員室によばれていった。
でも、<K>はその寄り道をやめようとしない。

<K>が帰ろうとしたとき、先生が話しかけたのを聞いた。
「友達と遊ぶのは大事だけど、危険なところで遊ぶのはもうだめだからね。」
釘をさされてる、俺はちょっと笑ってしまった。だけど、なんか違和感があった。
あいつは、いつも一人でいるんだ。それに橋の下にいたのも<K>ひとりって聞いたのに。
もちろん、いくら注意されようともそれから<K>が寄り道をやめることは無かったんだ。

祭りの夜。俺は友達と友達の家にいた。祭り囃子が聞こえる薄暮の中みんなで花火とかして、
普段出来ない夜遊びを楽しんでた。花火が終わり俺たちはその家に一晩とまる事になった。
「俺、<K>の友達、みたんだ。」
一人が、唐突に話し始めた。見てはいけないものをみた、そんな言い方だった。
おそらくあまりの気味悪さにずっと胸にしまっていたのだろう。「あいつ、橋の落書きにむかって楽しそうに話してた。いつも」
みんな一瞬しんとなった。夕暮れ時。カナカナ蝉がなくころ。<K>はいつも「友達」といたのか。

ある冬の日ついに最悪の事が起こった。街の防災無線が子供の行方を捜している。
<K>がいなくなったんだ。あまりに遅いので親が学校に連絡したところとうに帰った、といわれたのだ。
折からの強い雨。公務員の俺の親父にはリンリン電話が舞い込み、コートを着て長靴を履いて出て行った。
顔を知ってるか、ときかれて俺は親父の車に乗せられた。行く先は当然川だ。既に先生や近くの同級生、警察・・・
台風みたいに人が集まってた。でも結局<K>は見つからなかった。河川敷にも何も無い。
ただ、橋桁には赤いペンキでマルが描かれ、その中には人の顔のような落書きがあったのを覚えている。

「行方不明」の貼紙も色あせた頃。
その落書きも消されたのか、もうあとかたも無かった。

それだけの話だ。
友達。ひょっとして<K>は今、その友達と一緒にいるのだろうか。


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