[田舎道]
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段々と人影に近づいていく。その背の高さは兄貴と同じくらい。
やがてその足元が見えてきた。裸足だ。
舗装もされていない道なのに足には傷1つ付いていない。
徐々に近づいていく。
半ズボンが見える。知っているズボンだ。緑の半ズボン。裾が破けている。
シャツも見えてきた。青と白の縞のシャツ。兄貴のお気に入りのシャツ。
後頭部も見えて・・・
というところで、曽祖父が清じいの肩を掴んで言った。
曽祖父「見るな!清治、見たらいかん!」
半ば“それ”に見惚れていた清じいは、すぐに目線を落とした。
曽祖父が何かぶつぶつ言っている。よく聞き取れなかったが、どうやらお経のようだったと言う。

距離はいよいよ近づき、清じいと曽祖父は“それ”と並ぶ。
横では曽祖父がお経を念じている。
清じいは見ないように、見ないようにと自分に言い聞かせていたが、並んだ瞬間、明らかに“それ”がこっちを向いたことが分かった。
何か分からない、ものすごい力を持った視線を感じた、と言っていた。

やがて2人は“それ”を追い抜いた。
しかし清じいは、そこからが本当に怖かったと言っていた。
追い抜いた、つまり、今度は“それ”が後ろに居る、という事実。
足音は聞こえないが、確実に後ろに居る。
自分達のすぐ後ろを付いてきている。
こっちをじっと見つめている視線を感じる。

曽祖父は言った。
曽祖父「振り向くなよ、清治。絶対に振り向いたらいかんぞ。」
後ろを振り向くどころか、清じいには、もう横の曽祖父を見ることすら出来なかったらしい。
なぜなら、その背中に背負っているものを見るのが怖かったから。

2人は長い田舎道を、何かを後ろに感じながらひたすら歩いていった。
前方だけを見据えて、早く人気の多い場所へ付くことを祈りながら。
いつ、後ろに居るものが自分の名前を呼びかけてくるか、飛び掛かってくるかと、びくびくしながらずっと歩き続けたらしい。

しかし結局は、呼びかけてくることも、襲い掛かってくることもなかったそうです。2人は無事に祭儀場に到着し、兄貴の遺体を霊安室に預け、家に帰りました。

清じいは、帰り道にはなにも居なかったよ、と言っていました。
“それ”ってやっぱり兄貴だったの?、と聞いても、清じいには分からないようでした。
ただ、清じいはこう言っていました。
「あれからいまだに、後ろに何かが居る気配が取れないよ。」
と。
そんなとき清じいは、絶対に振り向かないようにしている、と言っていました。


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