[愛が全てさ]

やあ、ジェーン待ったかい?
ちょっとミーティングが長引いてしまってね。
お詫びに、今日はマッカム軍曹の話をしてやろう。
おっと、もし知ってても知らない振りをしてくれよ。それがエチケットだ。

ついこないだまで俺の上官だったマッカム軍曹な・・あの拡声器いらずのダミ声野郎さ。
軍曹の特技ってのがやっぱりその声でな、奴の悪態は敵対した相手のマシンガンを
ジャムらせる(弾詰まりさせる)って噂だった。
俺達も半分くらい信じちまってたんだぜ。
なんせ訓練時代、あいつの罵声が一番の暴力だったからな。あいつのファッキンスラングは
たぶん一生忘れねえ。母親の悪口を言わせたら、絶対あいつが世界一だ。
で、誰かが噂を確かめようと軍曹に持ちかけたわけだ。
奴は得意顔で応じたぜ。
一丁のマシンガンに奴がありったけの罵詈雑言を叩き付けてな。
実際に撃ってみると・・驚くことに、すぐにジャムっちまった。
トリックだと喚いた奴がオートマティック拳銃を差し出したが、やっぱりこれもジャムった。
しかも、母親(オールドモデル)の悪口を浴びせて、暴発までさせやがった。
これで奴の悪態が、劣化ウラン並みだって証明されたわけだ。
ところが、その軍曹が任務中、自分のマシンガンに悪態ついちまったせいで、
弾をジャムらせて敵に撃たれちまった。因果応報だよな。
道具は愛されてこそ真価を発揮するってのによ。
やっぱ人生、ポジティブに生きてる奴が得をするのさ。お前なら判るよな、ジェーン。
え?後ろがどうしたって・・

うわあっ!
・・って、キースかよ、いきなり背後から声かけんな。
なんだその目は?今、誰と話してただぁ?
見て判らんのか?仕方ねえな、紹介してやるよ。
俺のハニー。コンバットナイフのジェーンさ。
おい・・その犯罪者を見るような目はやめろ!さては、お前も愛が足りない口だな?
戦場さえ出向く俺達の最も心強い相棒がこのナイフだろうが。
俺のは特注だが、そんなにお前のと大差ないだろ。
ほう・・やはりお前には判るらしいな。焦点が合ってないぞ。一目惚れか?
まあ、他ならぬ友人のお前には持たせてもいいぞ。・・ああ、惚れ惚れするだろ?
ん?刃の色が変だって?
そりゃ使い込んでいるからな。手入れは完璧だが、
しょっちゅう血で濡れてりゃそんな薄い紅色にもなる。
調子がいい時は鉄さえ紙のように切ってくれるんだ。問題ない。
あ〜?人の血を吸いすぎた刃物は妖気を帯びる?東洋の伝説か?
ふむ・・最近、口数が増えた理由もそれで辻褄が合うな。
なに?俺が冗談飛ばす人間に見えるか?
おい・・なんで震えてんだ?
あん・・何て言うのかって?いや、だから、もっと血が欲しいって・・わあっ!
・・・あ・・あぶねえじゃねえか!いきなりジェーンを放り投げやがって・・。
刃が欠けたら夜泣きするんだぞ!
・・あれ?おい、どこへ行く?まだ、話は終わってないぞ。
いや、ソーリーソーリーって、そんな泣くほど謝られても困るが。
速いな・・もう見えなくなっちまった。
怖がることないのにな。俺の愛が生んだ奇跡なんだぜ。祝福しろっての。
なあ、ジェーン・・あと何人で結婚してくれるんだっけ?


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