[居眠り岩]
あれは確か中学3年の頃で学校が終わった放課後に別の学校の友達のAの家に遊びに行った時の話。 
学校からは友達の家まではかなり遠く、クタクタになりながらもAの家まで行った。 
俺はAと話していて、急にホラー映画の話題になった。 
それが皮切りに話は盛り上がり、 
「なぁ、この辺にそういう場所はあるのか?」と俺は聞いた。 
Aはニヤニヤしながら、「あぁ、あるぞ」と答えた。 
Aは更に言葉を加えて、「この辺じゃ結構有名な場所だ」と答えた。 
Aの話によると、そこはAの家から10分くらいの距離の神社らしい。 
早速そこに行ってみると、あるのは古びた社に京都の庭園とかにありそうな1メートルくらいの岩。 
「何もないじゃないか?」と俺が言うと、Aは「あるじゃんか、それだよ、その岩」とさっきの岩を指差す。 
「そろそろ教えろよ」ともったいぶるAに苛立ちを覚える俺。 
少しニヤニヤしていたが、やっと話す気になったのか、真剣な顔をして話し始める。 
「これは俺のじいちゃんから聞いた話なんだけど、この岩は今までこの神社で住職を務めてきたの墓石らしくてな、この辺じゃ居眠り岩って呼ばれてるんだ」 
いまいちピンと来ない名前に俺は首を傾げたが、Aは気にせず話を続ける。 
「やり方は確か、岩を三回叩いた後、『和尚さん、朝ですよ』というんだ、簡単だろ?」と肩をすくめながら言う。 
「じゃあ早速やるか」と俺が岩に近づこうとすると、Aがいきなり止める。 
「一つ言い忘れてた、これは朝方とかならご利益があるらしいが、夕方や夜分にやっちゃ駄目らしい、坊さんが怒るらしいから」 
別に坊さんが怒っても怖くないと、二人でAの言った事を試した。 
しかし、何も起こらない。 
やっぱり何もないかと思い、Aとはその場で別れ、俺は家に帰った。 
家に帰った俺は夕飯を食べた後、部屋に戻ると妙な匂いが漂ってる。 
お香というか、部屋を密閉して、その中で線香をしこたま焚いたような感じに線香の匂いがする。 
俺は窓を全開にしてれば消えると思い、窓を開けてそのまま部屋の中にいたんだが、一向に消えない。 
部屋に兄が入ってきたから、兄にこの匂いについて聞いたが、そんな匂いはしないといわれた。 
妙な胸騒ぎがしたが、あえて無視して、そのまま部屋にいた。 
それで9時だったか、携帯が鳴り、電話に出るとAからだった。 
俺は、「どうした?」と聞くと、「お前、家に帰ってから何かあったか?」と聞いたきたので、俺は部屋を漂う匂いの事を話すと、 
驚いたような口調で、「俺の部屋もだよ」とかなり焦った声色で話す。 
「実はじいちゃんにこの事を話したんだけど、かなり怒られてさ、下手すりゃ取り憑かれるって」 
「取り憑かれるってただごとじゃないか」と返す。 
「そう焦るな、何とかする方法がある」と更に続ける。 
方法はこうだ、寝る前に湯呑にお茶を一杯、小皿に漬物を装った物、そして茶碗一杯のご飯と味噌汁、 
更に『朝御飯です』と書いた紙を机に置いた状態で眠るという物。 
俺は早速用意して、机に置いた後、疲れたので寝た。 
それから朝の4時ごろだったか、俺は物音が気になって、目を覚ました。 
音は机から聞こえたから、机に目を向けた瞬間、俺は凍りついた。 
そこには、人型の霧状の物体が物凄い勢いで用意した飯を食べている。 
俺は首だけを起こした状態でその様をじっと見ていた。 
霧はこちらに気づいたのか、急に食べるのをやめて、こちらを向く。 
霧は俺のほうに歩み寄り、すぐ横まで来たところで止まり、俺の耳元で、 
「おこすなよ」 
と一言だけ告げた後、再び机に戻り、用意した飯を食べ続け、食い終わるとフッと消えた。 
その後、Aとはこの話は二度としまいと誓った。