[女の執念]
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こぇぇぇぇぇ。 
しかし、C子もよく阿部定なんて知ってるな。 
そして最後の日記。 
『A君もBも死んでしまえ。 
ふたりをくっ付けた○○(俺の名前)も、 
ふたりを祝福している会社の連中も死んでしまえ。 
みんなに呪いがかかるよう、 
会社のコーヒーメーカーにねずみの生き血を入れた。 
これからずっと続ける』 
そういえば、この日記のころから、 
コーヒーにうるさい社長が「コーヒー豆を変えたか?」 
「入れ方を変えたか?」「水を…」と言い出したのを思い出した。 
ちなみに俺はコーヒーを飲まない(飲めない)。 
どうやってねずみの生き血を手に入れたのかは知らないが、 
彼女はやる。きっとやる。 
上司に相談するとか、匿名でC子に警告するとか、 
いろいろ考えたが、どれもすぐに俺だと分かるだろう。 
どうしようもないまま数日が過ぎた。社長との会議中、 
また「コーヒーの味が…」と言い出したので 
コーヒーメーカーを変え、置き場所を湿っぽい給湯室から 
総務の机の隣に変えることを提案。 
あっさり了承したので、この問題は解決した。 
まさかみんながいる所で生き血を入れることはできないだろう。 
一月もしないうち、俺はより条件のいい別の会社からオファーがあり、 
そこに移った。A君やBもほどなくして辞めたそうだ。 
それからさらに1年後、会社を辞めた連中で飲むことになった。 
A君も来た。今ならC子がA君を好きだったこと、 
それを日記に残していたこと 
(もちろんコーヒーメーカーや阿部定のことは伏せて)を 
話してもまあいいだろう。 
「よっA、久しぶり」 
「○○さん久しぶりです」 
「元気にしてる?」 
「何とか。仕事が忙しいですけど」 
「それはいいことじゃん。そうそう、あのさ、 
Aに言おうと思ってたことがあるんだけど…」 
「何ですか? 実は僕も報告することがあるんですよ」 
「何?」 
「実は俺、C子と結婚したんです」 
「えっ、ま、マジで。それはおめでとう…」 
もちろん日記のことなど言い出せず、 
なぜBと別れてC子と結婚することになったのも聞きだせず、 
ただ女の執念は恐ろしいと思いました。 
ふたりは今も幸せに暮らしているそうです。