[悪魔の最大の目的]
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10分ほどで車が停まり、A兄が
「ここからは歩くぜ」
と言って降りた
まあ地元の人間でも知らなくて、しかもA兄が何度も探しに入らないと
見つからないような廃屋だから、車では途中までしか行けないことは頷けた
そこは舗装もされてない山道で、路肩の少し広がったところへ車を停めると、
もう人二人が並んで歩くくらいの幅しかないような細さだった

俺も何度かこの山には来たことがあるから、この道自体は知っていたけど、
なるほど、たしかにここから山に入っていった先に廃屋があるとすれば、
こんな意味不明なところで道幅が広がっているのも納得できた
「ここ。ほら、藪で隠れて見えなくなってるけど、階段があるだろ?」
A兄が鬱蒼と茂った草を掻き分けると、そこには無造作に石で組まれた階段…
どうやらここから山中へ上っていけるようだった

こんなんよく見つけたな、と思いつつも俺たちは縦一列に並んで上り始めた
当たり前だが夜で足元がわからず、懐中電灯の光で何とか目を凝らして進むため、
A兄の話ではすぐに着くはずの廃屋までは案外時間がかかった

30分弱ほど夜の山中を歩き、そろそろ息も上がってきたころ、
A兄が立ち止まって指差した

「あれだ。あそこのすこし開けたところ…見えねえか?」
見ると、たしかに林が切れた少し先に、建物らしきものがある
石垣に囲まれて、それは典型的な日本家屋のように見えた
ようやく辿り着いた廃屋に近寄ってみると、そこは廃屋と言うよりは残骸に近く、
中に入ることなんてとてもできないようなものだ
いささか期待はずれの廃屋に落胆しつつも、なんでこんなところに一軒家が…
という不思議な状況に興味をそそられる

それと同時に、なにか異様な雰囲気が、この場を渦巻いているような気がした
例えるなら、水の中に砂糖を溶かした時の、陽炎のようにゆらゆらと糖分が溶け出す感じ?
透明の何かが蠢いているように思えた

嫌な場所だな…
そう思いながらも辺りを見て回っていると、一緒に来ていた女の子が半泣きの声で、
一番近くにいた俺を呼ぶ
女の子が見ていたのは、家屋の正面、石垣のところにある表札だった
名前は、木板が腐ってしまっていて読めないがそんなことよりも背筋を寒くしたのは住所だった

▲▲村●● 1−1(番地は適当)

のように書かれているその▲▲の部分は、俺たちの市の名前だったが、問題なのは●●の部分…
懐中電灯に照らされたそこには、『呪』とあった

おいおい、やばいだろこれは…
そう思った俺はすぐにA兄に、ここは一体何なのか問い質した
「この家なんなの? この辺って住所■■だろ? 呪なんて地名聞いたことないし、
洒落になってねーよ」
俺に言われて、A兄は爺さんから聞いたという話を語り始めた

以下、さすがに細かくは覚えてないので要約だけ書くと、

・この近辺はA兄の爺さんが子供だったころ(つまり昭和初期ごろ?)、ある一族が何世帯か住んでいた
・その一族は何か独特の宗教のようなものを信じていて、その宗教の呪術の類を使って
占いやお祓いなんかをしていた
・しかしその一族の人間は次々に死んで、最後には誰もいなくなった
・その一族の住居は大半は戦後の宅地開発で付近の道路や宅地に変わってしまったが、
今でもこの山の中にいくつか残っているらしい


続く