[隣人]

僕がまだアパート暮らしをしていた時の話です。
3年間過ごしたそのアパートは、田舎町の外れにある物件で、隣の部屋はずっと空き部屋でした。
ある日僕が寝ようとしたところ、隣の部屋から「山のかんさん、もうおらんじゃろ。猿どまぜせな、たたるぞう。」というヒソヒソ声が聞こえてきました。

聞こえたままを訳すと、山の神様が、居ないだろう?猿でもけしかけなければ、祟ると、そう相談しているようでしたが、そんな会話なんて聞いたことがないので、意味については深く考えませんでした。

しかし、ヒソヒソ話は談笑になり、それがあまりにも大きな声だったので、僕は勝手に、仕事に行っている昼間の内に引越してきた、礼儀知らずな人達だとカン違いして、寝たまま、壁を2回コンコン、と叩いてやりました。

一瞬だけ声がやみました。そしてまた、ばれた、ばれた、ころさな、という、老人の寄り合いのようなヒソヒソ声が少しづつ増えていきました。
のんきなもので、その時、僕はまだ、ようやく眠れると思っただけでした。
しかし、寝返りをうった瞬間、一番大きな声があがり、隣の部屋からそれの親玉が「人か?けものか?人やろ!なあ!」と叫びながら、壁に体当たりをする、凄まじい音がしました。
急に体が動かなくなると、僕は気絶してしまい、目が覚めたら、そこは神社の裏手にある、井戸のそばでした。

介抱してくれた神主さんは、お茶を差し出すと「こころづけはいらんから、今日ここで、お祓いをしなさい。」と言うと、餓死した。


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