[笑いかける鏡の自分]
前頁

「実はAが死んだ朝、最初に見つけたのは私なのよ。」
おばさんは続けて言いました、
「時間になっても起きてこないから起こしに行ったの。
最初に見た時、Aの体が黄色になっていることに気付いたわ。
横向きになっていたんだけど、触れたら体が冷たいから急いで顔を見たら…
言葉では言い現せない程、怯えた表情だったの…」
先生は、最後まで聞きました。
目は白目をむいていて、舌が飛び出し、腕が間接とは逆に曲がっていたそうです。
お通夜で、見せられなかった理由もそれだったと、おばさんは伝えてくれました。

先生も大学生になり、線香はあげていたもののA君の死因を忘れかけていました。
当時所属していたサークルでも人気で一番可愛い女の子と付き合っていたそうです。

先生の家族が旅行でいない時に彼女を家に呼びました。テレビを見たりしながらイチャイチャしていたそうです。
先生がお風呂に入り、次に彼女が入りました。洗面所で髪を乾かしている彼女がこう言います。
「ねぇ〇〇くん、今ね鏡の私が笑ってた。幸せだからかな?」
その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾッとし全てが走馬灯のように記憶として甦りました。

今夜、何が起こるんだ?いや、たんなる病気だし何も起こらないかも知れない。でも、もし…
記憶を押し殺すかのように、先生は何も知らないふりをして夜を迎えました。
何かがあるなら見届けようと…

時間は午前2時半になろうかと言う時です、彼女は先に寝ていましたが先生はテレビを見ていました。
するとベッドで寝ていた彼女が突然動き出したのです。先生は恐る恐る布団をはぎ取りました。
すると、足元には見たこともない手鏡から笑顔の彼女が足引っ張っています。
必死で引っ張りましたが、あまりに強い力にとうとう彼女は鏡の中に吸い込まれてしまったそうです。
先生は怖くなり電気を付け、警察に連絡しましたがそんな冗談のような話を信じてくれるはずもなく、ただただ待ちました。
すると、突然ずしりと肩に重さがかかりました。よく見ると黄色い人間の手です。
振りほどいて見ると、見るも無残な姿の彼女がいたそうです。

さすがに警察も乗り出し、死因を調べましたが心臓発作によるものと断定されました。
先生はその影響によるショックで髪が白くなってしまい、しばらく入院しました。

私が小学生の時、先生は27才でしたが真っ白い白髪でした。若爺さんとも呼ばれていました。
先生はこの話をした後、言いました。
「誰もが一生に一度は訪れる現象です。もし鏡の中の自分が笑ったら、決して誰にも言わないように。
そして恐がらず、やさしくほほ笑み返して下さい。」
と、涙ながらに喋る姿は小学生ながらも、クラス中が本気なんだと感じました。

この話を知らない友達が、仲間内で「鏡の中の自分が笑った。」と言い、心臓発作で亡くなったことが、私の周りでも一度だけあります。

笑いかける鏡の自分は、鏡ではなく水面やガラス、会話している人の目に写ることもあるそうです。
ひょっとすると、自分の知らない間に笑いかけているかも知れません。
迂闊に鏡の中の自分を、他人に語らないようにした方が賢明だと思います…。


次の話

Part164menu
top