[プールに潜むモノ]

今シンガポールに彼女と旅行に来ている。
ほんの30分位前の話。
ホテルで朝食を終えて、昨日はかなり精力的に歩き回り疲れたので
外へ行くのは午後からにしようと言う事に。
2人でホテルのプールへ行った。
まだ早かったのか私たちの他に、白人の家族が1組。

私は学生時代水泳部だったのでちょっと泳ぎには自信あり。
彼女と泳ぎ始めた。プールは4角ではなくひょうたんみたいな変形プール。
それ程大きくない。直線で辛うじて25m有るかどうか。
クロールだとゆっくりで20秒以内には泳ぎ切れる距離。

泳ぎ始める......私が当然先行する。
でもゴーグルの視界左側に手のひらが見える。
「え?」と思いつつ少し速度を落とす。なーんかいやな感じだったので
左を向いて確かめたくは無い。でもゴーグルの視界左一杯にやはり手のひら。
程なくして壁に到着。振り返ると彼女はプールの半分くらいの位置。

白人家族は子供2人が浅いプールで遊び、奥様は読書。旦那様は寝てる感じ。
プールの中は私と彼女だけ。
「うーん」と心の中でうなり、彼女が着いた時点で私は向こうへ泳ぐ。
ゴーグルの視界には何も居ないようだ。
壁へついて振り返ると彼女はやはりプールの半分くらいの位置。

彼女が着いてからまた同じように私は泳ぎはじめる。
ゴーグルの視界には何も無いようだ。
ところが.........

右側前方にプールに入っている足が見える。
右側と言っても右側へ息継ぎをする為に上げる顔の動きからだと、
ゴーグルの視界に入るかどうかぎりぎりの位置。
怖いけど何とか見続けたい!と思い、頑張ってその足を観察。
真っ白。動いては居ない。思い切って顔上げたかったけどそれは出来なかった。
なーんか変な感じ。ちょっと怖くなって視界から外した。
正面を向いたとたん、またゴーグル左側に手の平が。
クロールで泳いでいるようだ(笑)。手のひらが規則正しく見える。

壁に着いてまず後ろを見る。彼女はやっぱりプールの半分くらいの位置。
で、あっ!と思いさっき足が見えたところあたりを見ると誰も居ない。
ここで本格的にビビル俺。
彼女が到着して、今度は平泳ぎに切り替える。
これなら結構回りが見えると思ったからだ。
左側には手はもう見えない。足も見えない。
顔を上げるたびに白人家族の姿は見える。相変わらず大きく動いた様子は無い。

プールの半分位まで結構ゆっくり目に泳いできたその時。「はぁ」
ってはっきり聞こえた。水の音とかそういうのは全く無視して。「はぁ」
だった。

思わず泳ぐのを止めた。ところが水深は結構深い。170cmしか無い私だが、
足が着かない。ちょっと焦って体を一旦水に静めて底を見た。足は届いたので多分180cm位の水深か?
で、一旦ひざを曲げて伸び上がるように泳ぎ始めようと思い前を見た。
向こうの壁に女の顔が沈んでいた。
水は無茶苦茶クリアーではないがそれは何なのかは判った。
そちらへは泳げず右側へ向きを変えた。
その顔はゴーグルの視界から左方向へ消えていくまではっきりと判った。
彼女は突然プールから上がった私に平泳ぎしながら私の事を少し見ながら
そのまま泳いでいった。女の顔は見えていないようだ。よかった。

強烈な嫌悪感を覚えて彼女には「上がろう」といい、
プールサイドで借りたタオルで体を拭くのもまま成らない勢いで
とにかく返してそこを立ち去りたかった。

もう直ぐ35歳になる私だが、霊感は全く無く、勿論今まで霊など見た事は無かった。
でも良く言う寒気などはプールの中で判らなかったし、しかも朝だ。
シンガポールは大戦中にかなり大胆な殺戮が日本兵によって
行われていたと旅行中に聞いた。しかもその場所で遊んでいる際に(イーストコーストビーチ)
何か憑かれたのだろうか。

元々このホテルを選んだのは私の古い友人が勤めていた事があり、
口が利くからだった。彼はまだシンガポールに住んでおり、
昼飯を一緒に食べる事になっている。
もしかしたら何かこのプールで有ったかも知れないので
彼に聞いてみるつもりだ。

雰囲気が上手く伝わらず申し訳ない。
彼女はとなりでこの文を読み「ばっかじゃなーい」と笑っているが。


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