[ある殺人者の話]
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自動販売機の近くにある電灯が人影を照らした。
隣に住む社会人だった。何やってんだ私。
軽く会釈し、マンションへと向かう。
気にしすぎだ。疲れてるのかなと思いながらマンションに入り口に入ろうとし、
自分が先ほど隠れていた自動販売機の方を見た。
電灯の下に人がいた。
葬式で見た顔。ファミレスで見ていた顔。エレベーターの中にいたあの顔。
健二は微笑みながらこちらを見ていた。
私はマンションへと走った。
エレベーターは一階に止まっていた。
エレベーターで行くか、階段で行くか・・・。
私はエレベータに乗り込み5階のボタンを押し、閉のボタンを押した。
はやく閉まれ。閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ!
私の願いが通じたようにエレベーターは健二がたどり着く前にしまってくれた。
エレベーター越しに健二を見る。
健二はリュックサックを背負っていて手にはサバイバルナイフを持っていた。
辿りつく前にエレベーターの扉が閉まり、私はとりあえず安心することができた。

もう安心だ。エレベーターから健二を再び見ようとしたが健二の姿は見えなかった。
そうだ階段があるじゃないか。なんで安心してるんだ。
「はやく5階についてくれ!!」そう祈りながら5階のボタンを狂うように押した。
5階につきエレベーターから出た。健二はまだ来ていない。
階段を昇る音が聞こえる。音は近づいてきている。
もう4階くらいかもしれない…。私は急いで自分の部屋の前に行きカバンから鍵を取り出そうとした。焦って鍵を落としてしまった。
急いで拾う。拾いながら階段の方を見た。
健二はもう5階についていた。
こちらに走って向かってきている。
私は鍵を拾いドアを開け中に入る。
入った瞬間扉が『ドン』と叩かれた。
たぶんサバイバルナイフで刺したのだろう。
私はなんとか鍵をかけることができ、チェーンをかけ
トイレに向かい鍵をかけた。
しばらく息ができなかった。

三時間はトイレにいたと思う。
トイレから出て玄関を見る。思った通り黒い封筒が落ちていた。
1/4
僕は今日は殺人者に会える気がした。
夢に咲弥と母さんが出てきたからだ。
悲しそうな顔をしていた。
はやく幸せにしてあげたい。
2/4
咲弥と母さんの予想通り殺人者の家に行ったら殺人者に会えた。
咲弥と母さんが会わせてくれたんだ。
殺人者は逃げた。
せっかく会えたのに。
幸せになりたくないのか。
不幸せが好きなのか。
3/4
僕は階段をのぼった。
殺人者に幸せを与えるために。
咲弥に幸せを与えるために。
母さんに幸せを与えるために。
父さんに幸せを与えるために。
みんなに幸せを与えるために。
4/4
殺人者は僕に会ってはくれなかった。
僕は悲しくはなかった。
またすぐ会える。
家族が僕の味方をしてくれる。
私は警察に電話をした。
予想通りの回答が返ってきた。
「よくあるいたずらじゃないですか?」
「いたずらじゃありません!手紙もちゃんとあるし扉にナイフで叩かれた跡があると思います!すぐ逮捕してください!」
「よくあるんですよ。一人暮らしでかまってほしくて、自作自演する人が。こんなことするならボランティアにでも行って少しは人の役に立つことをしないさい」
そう言われて私は電話を切った。
自分でやるしかないな。自分であいつを。
気がついたら台所にある包丁を見ていた。
手を包丁から離す。私は何をやろうとしているのか。
殺人者になるくらいなら私はいっそ死にたい。
でも本能がそうは言ってない。
自分の体を赤く染めたいと思っているに違いない。
あの夢のようにあいつを…。

続く