[旧校舎のトイレ]
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彼と、やっと再会したのは2ヶ月前の同窓会。
あの、明るかった藤井がまるで別人のように暗い。
何かあると思った私は、悩み事を聞いてやるからと、藤井に取り入りました。
「どないしたん?暗い顔して。会社か?ストレス溜まるやろ。不景気やしなぁ。
話せば少しは楽になると思うんやけどな。」
「え、いや、そんなんちゃうねん。」「ほんなら、なんや女の事か?」
「そんなんとも、違う…。」(えーい、いったい何やねん!
「勿体ぶらんでええやん。俺でよかったら力になったんで。」
藤井はポツリとはなし始めました。
「俺ら、小学校のとき、ずっと一緒やったやろ。」「ああ、確かにな。」
「俺一人で、旧校舎のトイレに行ったこと覚えてるか?」藤井はうつむきながら聞いてきた。
「当たり前やン!あんな怖いとこ一人で行けんのお前だけや!俺、今でも嫌やで!」
「あん時な、何でか知らんけど、大の方の扉、全部閉まっててん。」
「全部か?」「全部って言うのはおかしいかな、一番奥のトイレだけ空いてた。」
俺は、何故か聞いてはいけないものを聞いてるような錯覚に陥りました。
「俺な、しゃあないから一番奥のトイレでウンコしたんや。薄暗い便所やけど採光の窓あるから
他よりは、ましやったかも知れへん。」
俺は藤井が話すトイレの話が怪談めいてるのが気にはなりましたが、
そのまま黙って聞いていました。
「ぽっとん便所の下見るとな、底の方で小さく自分の顔が明かりに照らされて写っててん。
それがな…」
藤井はゆっくりとこっちに振り向き、俺の顔をのぞき込んだ。
「便所の底に写ってた顔がいきなり暗くなって消えたんや!」
「顔が消えたんか?」
「ああ、そん時はさすがに恐怖が襲った。それで俺は周りを見渡した。」
何か、だんだん俺の指先に力が入らなくなってきた。
これ以上聞かない方がいいのかもしれない。
「周りを見渡して、ふと、採光の窓をみると俺の事をまるで恨めしそうに、
じーっと見ている男の顔がそこにあってん。」
藤井の顔が青ざめていくのが判る!
俺はただ無言で、藤井の話を聞いていた。
「そして、その男は俺に、こう言うたんや。」
『…なんや、男か…。』
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