[水を置かなきゃ]

 今の住所(中古マンション)には彼是10年以上住んでいるが、色々あった。
 入居して間もなくの頃のこと。
 絵を描くのが趣味で、仕事が休みの日や平日の夜に水彩画を描いていた。
 小学校の頃から使っていた筆洗は捨ててしまったので、プリンやヨーグルトの空容器数個を筆洗にしていた。

 ある朝、起きたらベランダに出るガラス戸の前に水の入ったプリンの容器が置いたままになっていた。
 その前の晩、空容器を3個用意して絵を描いて、2個だけ使って1個は手付かずだったので、単純に仕舞い忘れだと思った。
 それを片付けて出勤。
 夜、帰ると何故か「ベランダの鉢植えにはカルキを抜いた水を遣らにゃなんねぇ」と思った。
 普段は水道水をそのまま遣ってるのに。
「いや、こんな所に水置いたらひっくり返してこぼすだろうw」
と思い、置いちゃダメだと思うのに、どうしても「そこ」に置かなければならない気もした。
 結局、「水を置かなきゃ」に負けたように、ベランダに出るガラス戸の前に水を入れたヨーグルトの容器を置いた。

 筆洗の置き忘れと、夜、葛藤しつつもベランダの前に水を置く事が1週間続いた。
 8日目の夜、「水を置こう」と思わなくなった。

 何で「そこ」に水を置かなきゃいけないと思ったのかは、今でもわからない。
 ベランダに出るガラス戸は、この部屋の唯一の窓でもある。
 もしかすると、見えない誰かが水を求めていて、1週間で満足してくれたのかもしれない。
 霊感がないので何もわからんが、そんな気がした。


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