[浴槽の老人]
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「ちょ、ストップ、動くな…いいか、よおく見ろ」
みんなKの方を見た。そしてゆっくり浴槽に目を移した。すると、うつ伏せのお爺さ
んの体からいろんな物がお湯に溢れていた(みんな解るよね)。4人とも言葉を失い、
誰も何も喋らない。一瞬の沈黙が支配した…するとKが、
「いいか、出てるということは、もう死後硬直が始まってる。もう確実に
死でるってことだ…わかるよなオレの言ってること」
オレはKの言っていることを理解していなかった。
そしてまた手を伸ばそうとしたとき、
「待てって」…Kの声がした。
そしてKは続けた。
「引き上げてもいいが…これは普通じゃない、長い時間お湯につかってるんだぞ。これ
から見るものは…みんな一生頭から離れることはない…その覚悟が出来てるのか、出来
てるなら引き上げよう」
また沈黙した。そして誰からともなく風呂を後にした。
ホテルの人を呼び、すぐに警察に電話したみたいだったが。オレ達二人は面倒に巻き込まれ
るのが嫌だったから、第一発見者は30歳代の二人ってことにしてすぐに部屋へ戻った。
そして部屋の窓から外を見ていると、パトカーが赤色灯も回さず、サイレンも鳴らさずに
ホテルにすべりこんだのが見えた
三十分後、気になって風呂のほうへ様子を見に行った。なにやらお爺さんの親族っぽい人と
ホテルの人が言い合ってるみたいだった。要約すると、ホテルの従業員も、警察が来るまで
お爺さんの遺体を風呂から引き上げなかったことに対しての罵声だった。オレもなんか嫌な
気分になった。
そして朝を迎えた。そこのホテルは朝になると男湯と女湯が入れ替わるところで、オレ達
男湯は大丈夫だろう、しかし女湯のほうは…と思っていたら。
なんと事故の起きた女湯(入れ替わってる)も普通に開いてた。
えっ、ひょっとしてお湯とか抜いて清掃してないのか…。だって時間的にさ、おかしいよね。
風呂が開くまでの二時間くらいで、湯を抜いて清掃ってできるのかぁ。
オレ達は凹んだまま朝湯につかり、昨日の事を思い出していた。するとフッと思った。
Kと二人で入った浴槽は一番右、事故が起きた浴槽は左、そこのお湯の流れは左から右に
流れてる…ということはオレ達のつかってたお湯って…。